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2023.10.30
画像診断
#8 脊髄梗塞(線維軟骨塞栓症:FCE)【画像診断】

<症例> 中型雑種犬、1歳、去勢雄、14kg

 

昨日気づいたら左前肢に力が入りにくくなっていたとのことで来院。
神経学的検査を行ったところ、左前肢の姿勢反応(正しい姿勢に戻そうとする正常な反射)の低下が認められました。頚部痛は認められませんでした。
レントゲン上では異常は認められず、精査のために頚部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、おおよそ第5頚椎(C5)から第7頚椎(C7)の範囲の脊髄に白い(T2強調画像で高信号:黄矢頭)を呈する領域が見られました。この部分の横断像を見てみると、脊髄の左側に楔形(扇形)状に白い領域(T2強調画像で高信号:黄矢頭)が見られました。同じ断面のT1強調画像では病変はほぼ分からず、造影剤を投与後のT1強調画像では病変は僅かに造影されていることがわかりました(橙矢頭)。なお、病変周囲の脊柱管内には椎間板物質などを疑う所見は認められませんでした。これら画像所見及び臨床経過、神経学的検査より、脊髄梗塞であると診断されました。

 

【MRI、頚部矢状断像、T2強調画像】
【MRI、頚部矢状断像、T2強調画像】
【MRI、C6病変部横断像、T2強調画像】
【MRI、C6病変部横断像、T2強調画像】

 

【MRI、C6病変部横断像、T1強調画像】
【MRI、C6病変部横断像、T1強調画像】
【MRI、C6病変部横断像、造影T1強調画像】
【MRI、C6病変部横断像、造影T1強調画像】

 

 

横断像の画像で病変が楔形を呈するというのが本症例で最も特徴的な画像所見であり、診断の決め手となる所見となります。あくまでイメージ図ではありますが、脊髄の周囲を走行している血管の内部が何かによって閉塞されると(青丸)、そこから先への血流が途絶えてしまい、血流が途絶えてしまった領域が本症例では、血流支配に沿って楔形に病変として現れています。本症例は典型的な楔形となっていますが、梗塞した血管の位置や支配領域、また、周囲の脊髄自体の浮腫が激しい場合などによって、典型的な画像にならない場合もあります。

 

脊髄梗塞の画像上の鑑別疾患の一つに#6で紹介させて頂いた急性非圧迫性髄核逸脱(AcuteNon-compressive Nucleus Pulposus Extrusion:ANNPE)という圧迫を伴わないタイプの椎間板ヘルニアがあります。急性非圧迫性髄核逸脱(ANNPE)は脊髄が椎間板物質により衝撃を受ける箇所が局所的であるため、T2強調画像矢状断像で高信号を呈する領域が一般的に1つの椎体の長さ以下と言われ、脊髄梗塞の場合は1椎体の長さ以上と言われています。本症例は約2椎体程度の長さであり、こういった所見も脊髄梗塞を診断する上での重要なポイントなります。

 

<線維軟骨塞栓症:Fibrocartilaginous embolism(FCE)>
脊髄梗塞で最も一般的な原因と言われており、他に脊髄梗塞の原因として、血栓症や腫瘍、寄生虫などがありますが、線維軟骨塞栓症以外の原因による脊髄梗塞はとても稀です。線維軟骨塞栓症(FCE)は、椎間板の髄核から飛び出た物質(線維軟骨)が脊髄周囲を走行する血管内に塞栓することで脊髄に虚血性の障害が起きます。脊髄梗塞というとあまり聞きなれないかもしれませんが、脳梗塞と同じで血管内に詰まることによって起こるために、突然発症します。
犬で一般的ですが、猫でも見られることがあります。症状は脊髄梗塞を起こした部位や範囲で変わってきますが、本症例のように頸髄で片側に寄った病変であれば片側の前肢、後肢、あるいはその両方に症状が出てくる事もあれば、麻痺の程度が強く起立できなくなってしまうケースもあります。

 

症状は急性に麻痺等の神経症状が出るため、椎間板ヘルニアととてもよく似ています。椎間板ヘルニアは外科的な治療が必要となることも多いため、MRIにより正確な診断をつけることがとても重要となります。

 

De Risio L. A Review of Fibrocartilaginous Embolic Myelopathy and Different Types of Peracute Non-Compressive Intervertebral Disk Extrusions in Dogs and Cats. Front Vet Sci. 2015 Aug 18;2:24. doi: 10.3389/fvets.2015.00024. PMID: 26664953; PMCID: PMC4672181.

 

*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。