<症例> 大型雑種、8歳、避妊雌、32kg
昨日の散歩中に急にどこかを痛がってキャンと泣き、それ以降背中を触るのを極端に嫌がるとのことで来院。
神経学的検査を行ったところ、麻痺などの異常は見られないが、背部に圧痛及び知覚過敏が認められました。レントゲン上、痛みがあると思われる部位に明らかな異常は見られず、精査のためにMRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、第12胸椎レベルの脊髄が白く見える異常部位が見つかりました(T2強調画像高信号:黄矢頭)。この病変は第12胸椎と第13胸椎の椎間(T12-13)直上まで続いており、T12-13椎間板内容物の減少が見られたため、同椎間からの椎間板ヘルニアの可能性が考えられました。病変部の横断像を見てみると、脊髄の左上に飛び出した椎間板物質と思われる構造物が見られましたが(橙矢頭)、脊髄はほぼ正常の形態を保っていることから、脊髄自体への圧迫はないと考えられました。よって、椎間板ヘルニアの中でも、急性非圧迫性髄核逸脱(Acute Non-compressive Nucleus Pulposus Extrusion:ANNPE)と分類されるタイプであると診断されました。
病変部の横断像を見てみると、脊髄の左上にT2強調画像で白く(高信号)、造影T1強調画像では黒く(低信号)で見える物質があり(橙矢頭)、T12-13から飛び出した椎間板物質と考えられました。画像の見え方から比較的液体成分に近い物質であるとも考えられ、以前ご紹介した、水和髄核逸脱(Hydrated nucleus pulposus extrusion:HNPE)のような成分と思われました。しかし今回は脊髄自体への圧迫はなく、脊髄実質の浮腫/炎症を疑う画像所見(T2強調画像で淡く高信号:黄矢頭)が認められたのみであったことから、勢いよく飛び出た椎間板物質によって、脊髄自体への損傷/影響はあるが、圧迫は見られないタイプの急性非圧迫性髄核逸脱(Acute Non-compressive Nucleus Pulposus Extrusion:ANNPE)であると診断することができました。
<急性非圧迫性髄核逸脱:Acute Non-compressive Nucleus Pulposus Extrusion(ANNPE)>
急性非圧迫性髄核逸脱とは、激しい運動や外傷などで急激に椎間板へ圧が加わり、髄核(椎間板の中心部にある柔らかい構造)が押し出され、これにより脊髄を損傷した後に、硬膜外腔内(脊髄の外側)で消滅(もしくは残るが)し、脊髄への圧迫は全くない
(もしくはほぼない)タイプの椎間板ヘルニアのことをいいます。
このタイプであるとMRIで診断できれば、脊髄への圧迫がないため、外科的治療の必要性がないと判断することも可能となります。
*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。