case

診療実績

2023.10.24
画像診断
#5 椎間板ヘルニア(髄内)【画像診断】

<症例> シベリアンハスキー、6歳、去勢雄、27kg

 

昨日ドッグランで、他の犬と追いかけっこをしていた所、突然痛がる様子があり、その後から両後肢を引きずり前肢だけで移動するようになったとのことで来院。
神経学的検査を行ったところ、後肢麻痺が認められました。
神経学的検査上、胸腰部脊髄疾患が疑われたため、胸腰部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、第13胸椎と第1腰椎の椎間(T13-L1)で椎間板の直上の脊髄中心部にT2強調画像で低信号(黒く)見える箇所があり(水色矢頭)、その周囲の脊髄がT2強調画像で高信号(白く)見える領域がありました(黄矢頭)。T13-L1の椎間板の量は正常な椎間板と比べて少なくなっていることから、T13-L1から椎間板物質が飛び出したことが疑われました。
胸腰髄で病変の見られた場所はこの1箇所であり、症状が急性に発症したこと及びMR画像所見から、T13-L1の椎間板ヘルニア(髄内)と診断されました。

 

【MR画像、胸腰部矢状断像、T2強調画像】
【MR画像、胸腰部矢状断像、T2強調画像】
【MR画像、胸腰部矢状断像、T2強調画像】
【MR画像、胸腰部矢状断像、T2強調画像】

 

【MR画像、横断像T13-L1、T2強調画像】
【MR画像、横断像T13-L1、T2強調画像】
【MR画像、横断像T13-L1、T2*強調画像】
【MR画像、横断像T13-L1、T2*強調画像】

 

T13-L1横断像のT2強調画像では、脊髄の中心部が少し黒く見え(やや低信号:水色矢頭)、この部分が飛び出した椎間板物質もしくは出血していると判断されました。また、その周囲の脊髄が白く見えている(高信号:黄矢頭)ことから、浮腫/炎症を起こしていることもわかりました。T13-L1横断像のT2*強調画像では脊髄からさらに背側へ続くようなラインが見えており(橙矢頭)、飛び出した椎間板物質が脊髄内部を貫通してさらに背側へ続いていった可能性も考えられました。

 

<硬膜内/髄内椎間板逸脱: Intradural/Intramedullary Intervertebral Disc Extrusion (IIVDE)>

一般的な椎間板ヘルニアで飛び出た椎間板物質は、硬膜外腔(脊椎と硬膜という脊髄を覆う一番外側の膜の間にある空間)にとどまります。しかし、稀に飛び出た椎間板物質が硬膜を突き破り、硬膜内、さらにはそのより内側に位置する脊髄内部(髄内)に入り込んでしまうことがあります。原因ははっきりとはわかっていませんが、脊椎への急激な外からの圧力によって、椎間板物質が硬膜などをまとめて突き破ってしまう説や、慢性的な椎間板ヘルニアなどによって硬膜が弱くなり、そこへさらに椎間板ヘルニアが起こることによって硬膜を貫通してしまう説などがあります。いずれにしても、急性に発症します。

 

本症例の場合は、椎間板物質が脊髄内へ入り込んでいることがMRIで確認されたため、外科の対象ではないと判断することができました。本症例は稀なケースではありますが、椎間板ヘルニアといっても様々なタイプがあり、MRIでより詳細に診断することにより、その子にあったベストな治療を選択することが可能です。

 

Casado D, Fernandes R, Lourinho F, Gonçalves R, Clark R, Violini F, Carrera I. Magnetic resonance imaging features of canine intradural/extramedullary intervertebral disc extrusion in seven cases. Front Vet Sci. 2022 Sep 14;9:1003042. doi: 10.3389/fvets.2022.1003042. PMID: 36187811; PMCID: PMC9517942.

 

*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。