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2025.03.01
画像診断
#48 脈絡叢腫瘍(脈絡叢乳頭腫)【画像診断】

<症例> チワワ、12歳、去勢雄

 

元気食欲の低下、性格の変化で来院されました。
神経学的検査を行ったところ、旋回、頭位回旋などの神経症状が認められ、頭蓋内疾患が疑われたため、精査のため頭部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、第三脳室内にT2強調画像/FLAIR画像で不均一に等信号〜高信号、T1強調画像で等信号を呈し、強い造影増強を伴う腫瘤(赤矢頭)が認められ、第三脳室内に発生した腫瘍が考えられました。その発生部位や造影効果から特に脈絡叢腫瘍が疑われました。左右の側脳室は拡大しており(右>左)、側脳室周囲には間質性浮腫を疑うT2強調画像/FLAIR画像高信号域(黄矢頭)が認められたことから、脳室内に発生した腫瘤による脳室経路の閉塞による水頭症が考えられました。

 

【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

【MRI、横断像、FLAIR画像】
【MRI、横断像、FLAIR画像】

 

本症例は最終的に剖検が実施され、脈絡叢乳頭腫との診断となりました。

 

<脈絡叢腫瘍 Choroid Plexus Tumors(CPT)>
脈絡叢腫瘍は脈絡叢上皮から発生する腫瘍で、脈絡叢乳頭腫choroid plexus papilloma(CPP)と脈絡叢癌choroid plexus carcinoma(CPC)の大きく2つに分類されます。脈絡叢乳頭腫(CPP)はWHOグレードIに分類され形態学的に良性であり、脈絡叢癌はWHOグレードⅢに分類され、組織学的に悪性であり、脳への浸潤や脳室内/くも膜下腔への播種/転移(drop metastasis)を引き起こしやすいと言われています。56頭の犬の脈絡叢腫瘍を調べた報告では、脈絡叢癌(CPC)の35%にdrop metastasisが認められ、脈絡叢乳頭腫ではdrop metastasisは認められませんでした。そのため、脈絡叢腫瘍を疑う画像所見が認められ、かつdrop metastasisが認められた場合には脈絡叢癌が示唆されます。

 

脈絡叢は脳室に存在する血管が豊富な組織で脳脊髄液を産生しています。そのため、脈絡叢腫瘍は脳室内に腫瘤を形成するため、側脳室、第三脳室、第四脳室及び外側陥凹に認められ、第四脳室での発生が最も多く、その次に第三脳室、側脳室での発生が多く認められ、特にゴールデンレトリーバーに多いとの報告があります。脳室内に発生することから、脳室の閉塞や脳脊髄液の産生過多により水頭症を引き起こし、臨床症状を発現することもよく見られ、発生部位により、行動変化、痙攣、麻痺、小脳や前庭障害などが見られます。
その他脳室内に発生する腫瘍として、上衣腫や脳室内髄膜腫や、神経膠腫やリンパ腫などの独立円形細胞腫瘍が脳室内へ進展し腫瘤を形成することもあります。
脈絡叢腫瘍は以前ご紹介した髄膜腫や神経膠腫などの腫瘍と比較すると発生頻度は低く、犬の頭蓋内原発性腫瘍を調べた報告では全体の5~7%と低いですが、脈絡叢癌の場合にはdrop metastasisを起こす確率も高いことから早期発見が望まれます。

 

<正常な脈絡叢(橙矢頭)>

【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

 

【参照文献】
Westworth DR, Dickinson PJ, Vernau W, Johnson EG, Bollen AW, Kass PH, Sturges BK, Vernau KM, Lecouteur RA, Higgins RJ. Choroid plexus tumors in 56 dogs (1985-2007). J Vet Intern Med. 2008 Sep-Oct;22(5):1157-65. doi: 10.1111/j.1939-1676.2008.0170.x. Epub 2008 Aug 6. PMID: 18691364

 

Snyder JM, Shofer FS, Van Winkle TJ, Massicotte C. Canine intracranial primary neoplasia: 173 cases (1986-2003). J Vet Intern Med. 2006 May-Jun;20(3):669-75. doi: 10.1892/0891-6640(2006)20[669:cipnc]2.0.co;2. PMID: 16734106

 

Kishimoto TE, Uchida K, Chambers JK, Kok MK, Son NV, Shiga T, Hirabayashi M, Ushio N, Nakayama H. A retrospective survey on canine intracranial tumors between 2007 and 2017. J Vet Med Sci. 2020 Jan 17;82(1):77-83. doi: 10.1292/jvms.19-0486. Epub 2019 Dec 4. PMID: 31801930; PMCID: PMC6983661.

 

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。