<症例> ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、12歳、避妊雌
けいれん発作(初発の群発発作)を起こしたとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、左前後肢の姿勢反応の低下が認められました。
レントゲン検査では異常は認められず、経過及び神経学的検査から右側の大脳病変が疑われたため、精査のために頭部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、右側の前頭葉〜側頭葉に周囲との境界がやや不明瞭な腫瘤を認めました(赤矢頭)。腫瘤は T2強調画像で辺縁が高信号、内部は不均一な混合信号、T1強調画像で辺縁高信号、内部等信号、T2*強調画像及び SWI (磁化率強調画像)で磁化率アーチファクトを伴い、造影後 T1強調画像では、腫瘤に軽度のリング状造影増強を認めました。腫瘤周囲には境界不明瞭な T2強調画像 で高信号の領域を認め(⻩矢頭)、この腫瘤による周囲の脳実質の浮腫が考えられました。この腫瘤及び周囲の浮腫により大脳の正中は左側へ偏位しており、また病変周囲の脳溝はやや不明瞭であったことから軽度脳圧亢進が考えられました。
以上の所見から腫瘤病変は細胞内及び細胞外メトヘモグロビンを多く含んだ亜急性期早期の出血/血腫と考えられました。発作の原因として発生部位からも相違ないと考えられましたが、背景に脳実質内腫瘍がある可能性は完全に否定できないため、約2か月後に再度MRIを撮影しました。以下の画像を比較して分かるように明らかに病変が縮小しており、信号強度の変化も合わせて同部位は血腫の慢性期(へモジデリン)と考えられ、経過からも脳実質内腫瘍の可能性は否定的と考えられました。
犬では、非外傷性かつ非腫瘍性の脳実質内出血の原因として血管炎、高血圧、血管奇形、虚血性脳卒中の出血性変化、凝固異常など様々な病態が報告されていますが、多くが原因不明です。ただし、単発性の非外傷性かつ非腫瘍性の脳実質内血腫は比較的予後は良好と言われています。出血のMRI所見はとても複雑で様々な因子の組み合わせによるため、撮像タイミングが出血からどの程度の時間(超急性期〜慢性期)が経過しているのかによって見え方が異なります。また、出血を伴う腫瘍を完全に否定することが困難なことも多いため、本症例のように時間を空けて再撮影して、病変が縮小もしくは消失しているかを確認することで腫瘍の可能性を否定していきます。
※出血のMR画像の見え方の経時的変化の例(T1強調画像、T2強調画像)
【参考文献】
Whitlock J, Holdsworth A, Morales C, Garosi L, Carrera I. 1.5 Tesla Magnetic Resonance Imaging Features of Canine Intracranial Intra-axial Hematomas. Front Vet Sci. 2021 Dec 24;8:778320. doi: 10.3389/fvets.2021.778320. PMID: 35004926; PMCID: PMC8739912.
An D, Park J, Shin JI, Kim HJ, Jung DI, Kang JH, Kim G, Chang DW, Sur JH, Yang MP, Lee C, Kang BT. Temporal Evolution of MRI Characteristics in Dogs with Collagenase-Induced Intracerebral Hemorrhage. Comp Med. 2015 Dec;65(6):517-25. PMID: 26678369; PMCID: PMC4681246.
Mai, Wilfried. Diagnostic MRI in Dogs and Cats. 1st ed. CRC Press, 2018. Web. 14 Oct. 2022.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。