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診療実績

2024.05.23
画像診断
#43 頭蓋内組織球性肉腫【画像診断】

<症例> ラブラドールレトリーバー、12歳、去勢雄

 

てんかん発作を起こし、最近右ばかりにくるくると回る様子があるとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、左側の視力低下も認められ、頭蓋内の精査のため頭部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、右側の側頭葉、頭頂葉、後頭葉にかけて頭蓋冠に沿って広範囲に基底幅の広い大型のT2強調画像/FLAIR画像で等信号(一部やや高信号)、T1強調画像で等信号を呈する腫瘤病変を認めました(赤矢頭)。腫瘤は明瞭な強い増強効果を伴い、腫瘤周囲からやや広範囲に髄膜の増強(pachymeningeal enhancement*、紫矢頭)も認められました。また、腫瘤辺縁にはdural tail signも認められました。本症例はさらに、脳溝に沿った髄膜の増強(leptomeningeal enhancement*、橙矢頭)も認められたことから、より組織球性肉腫が疑われました。

 

腫瘤周囲にはかなり広い範囲でT2強調画像/FLAIR画像で高信号を呈する領域を認め(黄矢頭)、腫瘤圧排による周囲白質の血管原性浮腫が考えられました。また、腫瘤及び周囲の浮腫に伴い右側の帯状回と呼ばれる部位が正中の大脳鎌を超え反対側へ逸脱(帯状回ヘルニア)及び大脳の小脳テント下への逸脱(テント切痕ヘルニア)が認められました(黄緑矢頭)。
これら血管原性浮腫の範囲がかなり広いことや脳ヘルニアを伴うことからもより組織球性肉腫が疑われました。

 

 

【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】

 

 

<頭蓋内組織球性肉腫 Intracranial histiocytic sarcoma>

組織球性肉腫には大きく分けて局所型と播種型があり、局所型は関節周囲や骨、皮膚、肺に多く発生します。中枢神経系(CNS)においても組織球性肉腫が発生することがあり、日本における犬の頭蓋内腫瘍の発生率(186頭)を調べた報告では髄膜腫(50.9%)が最も多く、その次にグリオーマ(グリア腫瘍、21.4%)、組織球肉腫(12.6%)で、犬種はウェルシュコーギーペンブローク、シベリアンハスキー、ミニチュアシュナウザーで多く認められています。脳腫瘍は基本的にグリオーマのような脳実質内に腫瘤を形成するものと髄膜腫のように脳実質外に腫瘤を形成するものの大きく2つに分けられます。組織球性肉腫はどちらのタイプも取ることがありますが、脳実質外のタイプの方が多く見られます。

 

脳実質外のタイプの頭蓋内組織球性肉腫の場合、髄膜腫とよく似た「dural(=硬膜) tail sign」等のMRIの所見が認められることから画像での鑑別が困難なことがありますが、頭蓋内原発性組織球性肉腫の場合、髄膜腫と比較すると予後が特に悪いために画像でしっかりと鑑別を行うことが重要となってきます。この2つのMR Iの所見を比較した論文によると、組織球性肉腫では、髄膜腫と比較すると「腫瘤周囲の浮腫がより広範囲に認められる」「髄膜の増強は腫瘍周囲のみでなく腫瘤遠位でも認められ、その髄膜増強パターンはpachymeningeal enhancement、leptomeningeal enhancementのどちらも認められること」「脳ヘルニアがより重度に認められる」ことが多いとあります。その他にも、髄膜腫の特徴として、「嚢胞性変化が認められることがある」「隣接する頭蓋骨の骨性変化が認められる」「髄膜の増強は腫瘤周囲のみかつpachymeningeal enhancementである」ことが多い、などがあげられます。これらを使用すると髄膜腫を診断できる確率は79.2%~94.4%、組織球性肉腫を診断できる確率は76.0~92.3%とこの論文では言われており、画像から可能な限りより詳細な画像診断を実施できるように日々検査を実施しております。

 

*pachymeningeal enhancementとleptomeningeal enhancement
→髄膜の増強のパターンの名称で、髄膜は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜の3層となっており、pachymeningeal enhancementは硬膜(pachymeninx,dura mater)の増強、leptomeningeal enhancementは広義の軟膜(leptomeninx=くも膜 arachnoidea mater,軟膜 pia mater )の増強のことを指します。組織球性肉腫で認められることがあるタイプのleptomeningeal enhancementは以下の図のように脳溝の溝に沿って造影増強が認められるのが特徴的です。

 

【正常】
【正常】
【pachymeningeal enhancement】
【pachymeningeal enhancement】
【leptomeningeal enhancement】
【leptomeningeal enhancement】

 

【参考文献】

Mai W, Burke EE, Reetz JA, Hecht S, Paek M, Church ME, Werre SR, Mariani CL, Griffin JF, Glass EN. High-field MRI using standard pulse sequences has moderate to substantial interobserver agreement and good accuracy for differentiation between intracranial extra-axial histiocytic sarcoma and meningioma in dogs. Vet Radiol Ultrasound. 2022 Mar;63(2):176-184. doi: 10.1111/vru.13038. Epub 2021 Dec 8. PMID: 34881469.

 

Wada M, Hasegawa D, Hamamoto Y, Yu Y, Fujiwara-Igarashi A, Fujita M. Comparisons among MRI signs, apparent diffusion coefficient, and fractional anisotropy in dogs with a solitary intracranial meningioma or histiocytic sarcoma. Vet Radiol Ultrasound. 2017 Jul;58(4):422-432. doi: 10.1111/vru.12497. Epub 2017 Mar 23. PMID: 28335080.

 

Kishimoto TE, Uchida K, Chambers JK, Kok MK, Son NV, Shiga T, Hirabayashi M, Ushio N, Nakayama H. A retrospective survey on canine intracranial tumors between 2007 and 2017. J Vet Med Sci. 2020 Jan 17;82(1):77-83. doi: 10.1292/jvms.19-0486. Epub 2019 Dec 4. PMID: 31801930; PMCID: PMC6983661.

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。