<症例> キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、6歳、避妊雌
普段から頚のあたりを掻くような仕草があるが皮膚は特に問題ないと言われ、神経の問題ではないかと他の病院で指摘されたとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、明らかな神経学的異常は認められず、レントゲン検査でも異常は認められなかったため、精査のためMRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、頚髄背側寄りがT2強調画像で顕著な高信号、T1強調画像で低信号を呈し、増強効果に乏しいことから、脊髄空洞症が疑われました(水色矢頭)。本症例では、小脳尾側の大後頭孔への突出像(キアリ様奇形:赤矢頭)が認められたことから、脊髄空洞症の原因として、キアリ様奇形による頭頚部接合部領域での脳脊髄液の循環障害が考えられました。
<脊髄空洞症 Syringomyelia>
脊髄空洞症はより正確な表現をすると「脊髄空洞症/水脊髄症(Syringomyelia/hydromyelia)」や「水脊髄空洞症(Syringohydromyelia)」とも呼ばれますが(動物では脊髄が小さくMR画像上では脊髄空洞症と水脊髄症が区別できないとされているために「水脊髄空洞症」と呼称した方がいいという考えの画像診断医が多いですが、完全に定義されているわけではありません)、一般的に脊髄空洞症と呼ばれることが多いです。
脊髄空洞症は脳脊髄液(CSF)の循環動態の変化により、脊髄実質内に液体が貯留して空洞が形成される疾患のことで、先天性及び後天性(脊髄損傷や脊髄腫瘍など)どちらでもみられますが、一般的に見られる脊髄空洞症のほとんどがキアリ様奇形などの頭頸部接合異常による先天性奇形の合併症としてみられます。ただし、脊髄空洞症は基本的にゆっくりと拡大していくことが多いため、発症するのは若齢とは限りません。キアリ様奇形/脊髄空洞症はキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル及びブリュッセル・グリフォンに遺伝することがわかっています。脊髄空洞症はその他マルチーズ、ヨークシャーテリア、チワワ、ポメラニアンなどのトイ犬種に好発します。
最もよく見られる症状は知覚過敏や疼痛であり、「ファントムスクラッチ phantom scratching」と呼ばれる頚部や体幹部を掻こうとする知覚過敏による症状が特徴的です。この症状は皮膚疾患と間違われることも多いため、特に好発犬種では注意が必要です。脊髄空洞症が進行すると、四肢の不全麻痺などのより強い脊髄障害が見られることがあります。
ちなみに以下の画像の橙矢頭の部分に、脊髄空洞症の病変内部にT2強調画像で黒っぽく見える部分があります。脊髄空洞症は脳脊髄液(CSF)が貯留しているはずなので、内部は基本的に液体(水)の信号強度、すなわちT2強調画像で高信号(白)を呈するはずです。これはCSF flow アーチファクトとよばれるアーチファクト(ノイズのようなもの)で、脳脊髄液の流れが早くなる部位や乱流を伴うような脳脊髄液の貯留部(脊髄空洞症、大槽、水頭症など)で見られることがあります。一見病変のようにも見えてしまうため、他の撮像法や他の断面などと合わせてアーチファクトなのか、病変なのか、というところを判断していきます。
【参考文献】
Rusbridge C, Stringer F, Knowler SP. Clinical Application of Diagnostic Imaging of Chiari-Like Malformation and Syringomyelia. Front Vet Sci. 2018 Nov 28;5:280. doi: 10.3389/fvets.2018.00280. PMID: 30547039; PMCID: PMC6279941.
Mai, Wilfried. Diagnostic MRI in Dogs and Cats. 1st ed. CRC Press, 2018. Web. 14 Oct. 2022.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。