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2023.10.22
画像診断
#4 広範囲に出血を伴う椎間板ヘルニア【画像診断】

<症例> トイプードルミックス、8歳、避妊雌、3.8kg

 

昨日家の廊下で走り回っていたところ、突然キャンといって、その後から後肢に力が入りにくくなったとのことで来院。
神経学的検査上、両後肢の不全麻痺が認められ、特に左後肢の方が麻痺の程度が強いということがわかりました。胸腰部の脊髄疾患が疑われ、MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、第12胸椎(T12)から第4腰椎までの広範囲で脊髄を周囲から圧排するような物質が認められました(赤矢頭)。最も圧迫が強い場所は第2腰椎と第3腰椎の椎間(L2-3)で、左側から脊髄を圧迫しており、症状とも一致しました。この場所の椎間板(L2-3)は他の椎間板と比べると、極端に黒く(低信号:椎間板の変性)に見えたことから、このL2-3の椎間で椎間板ヘルニアが起こった可能性が高いと考えられました。しかし、椎間板ヘルニアにしては極端に範囲が広く(約5椎体分)、脊髄を圧迫する物質がT2強調画像及びT1強調画像で黒く(低信号)見えることから、その多くは出血が疑われました。よって、広範囲に硬膜外出血を伴った椎間板ヘルニア(Acute Intervertebral Disc Extrusion With Extensive Epidural Hemorrhage、HansenI型/急性)と診断されました。

 

【MR画像、胸腰部矢状断像】
【MR画像、胸腰部矢状断像】
【MR画像、胸腰部矢状断像、正常例】
【MR画像、胸腰部矢状断像、正常例】

 

【MR画像、横断像(L2-3)、T2強調画像】
【MR画像、横断像(L2-3)、T2強調画像】
【MR画像、横断像(L3-4)、T1強調画像】
【MR画像、横断像(L3-4)、T1強調画像】

 

【MR画像、横断像(L1-2)、T2強調画像】
【MR画像、横断像(L1-2)、T2強調画像】
【MR画像、横断像(T12-13)、T2強調画像】
【MR画像、横断像(T12-13)、T2強調画像】

 

L2-3(横断像)で、左側から脊髄が血液のかたまりと思われる黒い物質によって圧迫されています。少し頭側のL1-2(横断像)では、背側及び左側から脊髄が少し押されています。一番頭側のT12-13では、左背側に少し黒い物質が見えていますが、ここでは脊髄の形はほぼ保たれており、脊髄への影響はほぼないと考えます。

 

<広範囲に硬膜外出血を伴った椎間板ヘルニア(Acute Intervertebral Disc Extrusion With Extensive Epidural Hemorrhage)>

 

椎間板から飛び出した椎間板物質によって、脊髄の腹側を走る腹側内椎骨静脈叢と呼ばれる血管が傷つき、そこから硬膜外出血を起こすことがあります。脊髄は髄膜という膜に覆われており、外側から硬膜、くも膜、軟膜と呼ばれ、硬膜外出血とは髄膜の一番外側の膜のさらに外側で出血を起こすことを言います。この病態は胸腰椎でのみ起こると言われています。また、中型〜大型の犬種でより多いと言われますが、小型犬でも珍しくありません。

 

MRIにおいて出血(血液)の画像の見え方は、出血を起こしてどれくらいの時間が経過しているのかによって、T2強調画像、T1強調画像といった撮像方法での見え方がそれぞれ変化していきます。本症例は経過及び画像から、出血を疑いましたが、椎間板物質も硬さによっては同じような画像を呈するため、どこまでが出血で、どこまでがヘルニア内容物なのか、正確な判断はMRIをもってしても難しい場合もあります。しかし、MRIには出血を調べる特殊な撮像方法もあり、必要に応じて撮像法を追加して検査することも可能です。特に脳領域においては、他の画像で見えて来ないような微小な出血も捉えることができます。

 

Fenn J, Olby NJ; Canine Spinal Cord Injury Consortium (CANSORT-SCI). Classification of Intervertebral Disc Disease. Front Vet Sci. 2020 Oct 6;7:579025. doi: 10.3389/fvets.2020.579025. PMID: 33134360; PMCID: PMC7572860.

 

*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。