<症例>ボクサー、7か月齢、雄
1週間前ごろから右の後肢のつま先を擦るような様子があり、一度痛み止めで様子を見たが、改善が見られないとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、両後肢の不全麻痺が認められました。
レントゲン検査では異常は認められず、精査のため胸腰部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、T13-L1椎間からL1椎体中央レベルの脊柱管内に、T2強調画像で等信号〜高信号、T1強調画像で等信号、造影剤により明瞭に増強される円柱状の腫瘤が認められ(赤矢頭)、脊髄腫瘍が疑われました。脊柱管内は腫瘤により占拠されており、正常な脊髄はほとんど確認することができませんでした。腫瘤の前後にはゴルフティーサイン(golf tee sign)と呼ばれる画像所見を疑う脳脊髄液の貯留像(水色矢頭)も認められたため、硬膜内髄外腫瘍が疑われ、これら所見及び年齢から腎芽腫(腎芽細胞腫)の可能性が最も高いと考えられました。
<腎芽腫 Nephroblastoma>
腎芽腫(腎芽細胞腫)は名前の通り、一般に腎臓原発腫瘍ではありますが、稀に脊髄から発生することもあります。腎芽腫は若齢(3歳未満)で認められることが多く、発生部位はおおよそT9〜L3領域に多いとされています。この位置は比較的腎臓に近く、胎児期に腎臓の組織の一部が脊椎となる器官に迷い込み、後に腫瘍化するからと考えられています。臨床症状は腫瘍による脊髄圧迫による神経症状のため、慢性進行性の後肢麻痺が見られることが多いです。ジャーマンシェパードに多いという報告もあります。また、脊髄内転移することがあるという報告もあります。また、本症例は硬膜内-髄外での発生が疑われましたが実際に硬膜内-髄外での発生が多いですが、髄内に発生することもあります。
硬膜内髄外腫瘍とは、硬膜の内側かつ脊髄の外側に位置する腫瘍で、ゴルフティーサイン(golf tee sign)と呼ばれる特徴的な画像所見が見えると、硬膜内髄外腫瘍を疑います。
ゴルフティーサイン(golf tee sign)とは、硬膜内髄外病変の周囲を脳脊髄液(脊髄造影の場合は造影剤)が取り囲むことによって、ゴルフボールを乗せて固定するティーの形に似ていることからそう呼ばれています。脊髄硬膜内髄外腫瘍の鑑別には神経鞘腫、髄膜腫、リンパ腫(また本症例のように稀に腎芽腫)などが考えられます。
【参照文献】
McConnell JF, Garosi LS, Dennis R, Smith KC. Imaging of a spinal nephroblastoma in a dog. Vet Radiol Ultrasound. 2003 Sep-Oct;44(5):537-41. doi: 10.1111/j.1740-8261.2003.tb00503.x. PMID: 14599165.
Tagawa M, Shimbo G, Tomihari M, Yanagawa M, Watanabe KI, Horiuchi N, Kobayashi Y, Miyahara K. Intramedullary spinal nephroblastoma in a mixed breed dog. J Vet Med Sci. 2020 Jul 10;82(7):917-921. doi: 10.1292/jvms.20-0068. Epub 2020 May 18. PMID: 32418935; PMCID: PMC7399307.
Mai, Wilfried. Diagnostic MRI in Dogs and Cats. 1st ed. CRC Press, 2018. Web. 14 Oct. 2022.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。