case

診療実績

TOP > #36 脊髄硬膜外膿瘍【画像診断】
2024.01.13
画像診断
#36 脊髄硬膜外膿瘍【画像診断】

<症例> バーニーズマウンテンドッグ、3ヶ月齢、雄

 

元気がなく、痛がる様子があるとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、後肢の不全麻痺及び背部痛が認められました。また発熱も見られたことから感染も考えられました。レントゲン検査ではL1-2椎間板腔が他の椎間に比べて狭くなっており、L1椎体とL2椎体が僅かにずれていることから亜脱臼も考えられました。この部位での脊髄病変が疑われたため、精査のため胸腰部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、T13からL4レベルの脊柱管内左側にT2強調画像で高信号〜不均一な混合信号、T1強調画像でやや低信号〜等信号を呈し、造影剤により不均一に増強される病変を硬膜外に広範囲に認めました(緑矢頭)。また、T2*強調画像で病変の一部は低信号を呈し、出血の併発も疑われました。この病変により脊髄は左側(一部で周囲)から重度に圧排されていました。またL1-2椎間板から病変への連続性を認めたとこから(橙矢頭)、椎間板脊椎炎に起因した硬膜外膿瘍が考えられました。

 

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【レントゲン、腰部、ラテラル】
【レントゲン、腰部、ラテラル】

 

【MRI、矢状断像、造影T1強調画像】
【MRI、矢状断像、造影T1強調画像】
【MRI、矢状断像、STIR画像】
【MRI、矢状断像、STIR画像】

 

【MRI、L1-2横断像、T2強調画像】
【MRI、L1-2横断像、T2強調画像】
【MRI、L1-2横断像、造影T1強調画像】
【MRI、L1-2横断像、造影T1強調画像】

 

 

<脊髄硬膜外膿瘍 spinal epidural empyema>

脊髄硬膜外膿瘍の原因として、本症例のように椎間板脊椎炎から感染が直接硬膜外に広がる場合もあれば感染が血行性に播種したりすることもあります(30頭の脊髄硬膜外膿瘍の犬を調べた報告では、15/30頭に病変に隣接するレベルに椎間板脊椎炎の徴候があったと報告されています)。その他、直接的な外傷、異物の混入、手術の際の侵襲などによっても起こることがあります。症状は患部の疼痛が最も多く見られ、本症例のように膿瘍が脊髄を圧迫すると神経症状(不全麻痺や完全麻痺)を出します。また、感染による発熱も見られることが多いです。脊髄硬膜外膿瘍は疼痛、発熱のみの場合は症状が特異的でなく様子を見がちになってしまうかもしれませんが、脊髄硬膜外膿瘍は感染が悪化すると命に関わることもあるため、早期発見早期治療が重要となってきます。診断はMRIが最も有用となります。

 

なお、若齢(6ヶ月未満)の椎間板脊椎炎の犬のレントゲンにおいて見られる最も早い変化として椎間板腔の狭小化が見られると言われており、その次に椎体の亜脱臼が起こることがあるとされています。本症例(3ヶ月齢)は実際にレントゲン検査においてL1-2椎間板腔が他の椎間に比べて狭くなっており、L1椎体とL2椎体が僅かにずれていることから亜脱臼も疑われましたが、これは椎間板脊椎炎によるものと考えられました。

 

【参考文献】

De Stefani A, Garosi LS, McConnell FJ, Diaz FJ, Dennis R, Platt SR. Magnetic resonance imaging features of spinal epidural empyema in five dogs. Vet Radiol Ultrasound. 2008 Mar-Apr;49(2):135-40. doi: 10.1111/j.1740-8261.2008.00339.x. PMID: 18418993.

 

Blanco C, Moral M, Minguez JJ, Lorenzo V. Clinical Presentation, MRI Characteristics, and Outcome of Conservative or Surgical Management of Spinal Epidural Empyema in 30 Dogs. Animals (Basel). 2022 Dec 17;12(24):3573. doi: 10.3390/ani12243573. PMID: 36552493; PMCID: PMC9774607.

 

Kirberger RM. Early diagnostic imaging findings in juvenile dogs with presumed diskospondylitis: 10 cases (2008-2014). J Am Vet Med Assoc. 2016;249(5):539-546.doi:10.2460/javma.249.5.539

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。