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2023.12.26
画像診断
#35 脳腫瘍(グリオーマ疑い)【画像診断】

<症例> フレンチブルドッグ、6歳、未避妊雌

 

1-2週間前から左回りにくるくると旋回する様子があり、元気もここ最近徐々に落ちている、てんかん発作もここ1-2ヶ月で複数回起こしているとの主訴で来院されました。
来院時には意識状態がやや低下しており、脳の疾患が強く疑われたため、精査のため頭部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、左の前頭葉に大型の腫瘤が認められました(黄丸)。腫瘤はT2強調画像/FLAIR画像で高信号、T1強調画像で等〜やや低信号を呈し、造影剤により内部に増強される領域が一部認められましたが、大部分は増強効果に乏しくみられました。側脳室は中程度〜重度に拡大しており、左右差を認め、左側で重度に拡大していました。
腫瘤により、大脳正中は右側へ偏位し(ミッドラインシフト)、大脳脳溝は非常に不明瞭でした。まら、視床や中脳は尾側へ圧排されており、中脳が小脳テント下へ陥入するテント切痕ヘルニア(緑矢印)も認められました。これらから頭蓋内圧の亢進が強く疑われました。
また、撮像範囲内の頚髄はT2強調画像でびまん性に淡く高信号を呈しており(黄矢印)、テント切痕ヘルニアによる中脳水道、第四脳室狭窄による二次的な脊髄空洞症の前段階(Presyrinx)と思われる状態と考えられました。

 

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】

 

【MRI、横断像、T1強調画像】
【MRI、横断像、T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

 

画像からは、左前頭葉の腫瘤は、脳室内発生の可能性も疑われ脈絡叢腫瘍なども考えられましたが、犬種及び腫瘤の信号強度、増強効果などから、脳実質内腫瘍であるグリオーマ(神経膠腫)及びそれによる二次的な閉塞性の水頭症、Presyrinx(脊髄空洞症の前段階のような状態)が最も疑われました。

 

<グリオーマ(神経膠腫、膠細胞腫)glioma>
成犬における脳腫瘍の発生率は0.01%~4.5%と言われており、その中でグリオーマの発生率は様々な報告があり36%~70%を占めると言われています。日本における犬の頭蓋内腫瘍の発生率(186頭)を調べた報告では髄膜腫(50.9%)が最も多く、その次にグリオーマ(グリア腫瘍、21.4%)、組織球肉腫(12.6%)でした。同報告において、グリオーマの組織学的分類では、乏突起膠細胞系腫瘍 oligodendroglial tumors(79.4%;乏突起神経膠腫oligodendrogliomas 、退形成性乏突起神経膠腫 anaplastic oligodendrogliomas)が最も多く、次に星細胞腫瘍 astrocytic tumors(17.6%;星細胞腫 astrocytoma、退形成性星細胞腫 anaplastic astrocytoma、膠芽腫 glioblastomas)、大脳神経膠腫症 gliomatosis cerebri(2.9%)という結果であり、乏突起膠細胞系腫瘍の中でも退形成性乏突起神経膠腫と言われる悪性度の高いものが多くを占めていました。発生場所はほとんどが大脳(前頭葉/側頭葉/頭頂葉/梨状葉/後頭葉など)に発生しますが、その他、脳室内やびまん性に広く浸潤するものや、脊髄に発生することもあります。

 

フレンチブルドッグやブルドッグ、ボクサーといった短頭種がグリオーマのリスクが高いと報告されており、実際に検査を行っていても特にフレンチブルドッグに多く見られる印象があります。中〜高齢で多く見られますが、平均発症年齢は8歳前後であることから比較的若い年齢でも発症します。特にフレンチブルドッグといった短頭種の子が発作を起こした場合には高齢ではないとしても早めにMRI検査を受けることをお勧め致します。

 

【参考文献】
José-López R, Gutierrez-Quintana R, de la Fuente C, Manzanilla EG, Suñol A, Pi Castro D, Añor S, Sánchez-Masian D, Fernández-Flores F, Ricci E, Marioni-Henry K, Mascort J, Matiasek LA, Matiasek K, Brennan PM, Pumarola M. Clinical features, diagnosis, and survival analysis of dogs with glioma. J Vet Intern Med. 2021 Jul;35(4):1902-1917. doi: 10.1111/jvim.16199. Epub 2021 Jun 12. PMID: 34117807; PMCID: PMC8295679.

 

Kishimoto TE, Uchida K, Chambers JK, Kok MK, Son NV, Shiga T, Hirabayashi M, Ushio N, Nakayama H. A retrospective survey on canine intracranial tumors between 2007 and 2017. J Vet Med Sci. 2020 Jan 17;82(1):77-83. doi: 10.1292/jvms.19-0486. Epub 2019 Dec 4. PMID: 31801930; PMCID: PMC6983661.

 

Song RB, Vite CH, Bradley CW, Cross JR. Postmortem evaluation of 435 cases of intracranial neoplasia in dogs and relationship of neoplasm with breed, age, and body weight. J Vet Intern Med. 2013 Sep-Oct;27(5):1143-52. doi: 10.1111/jvim.12136. Epub 2013 Jul 19. PMID: 23865437.

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。