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2023.12.22
画像診断
#34 下垂体嚢胞【画像診断】

<症例> チワワ、13歳、避妊雌

 

下垂体性副腎皮質機能亢進症の疑いがあり、下垂体の精査のために頭部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、下垂体はトルコ鞍(下垂体が納まる骨の凹み:下垂体窩)におさまり腫大は認められませんでしたが、トルコ鞍腹側域にT2強調画像で高信号、T1強調画像で低信号を呈し、増強効果に乏しい液体貯留を疑う領域が認められ、下垂体嚢胞が疑われました(水色矢頭)。これにより、下垂体はやや背側へ変位していましたが、その他、下垂体領域に明らかな異常は認められませんでした。なお、本症例は小脳尾側が脊柱管内に突出するキアリ様奇形(Chiari like malformation)が認められ、また、C2(第2頚椎)レベルの脊髄に背側からの圧排像(環軸バンド、atlantoaxial bands)が認められました(緑矢頭)。

 

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T1強調画像】
【MRI、矢状断像、T1強調画像】

 

【MRI、下垂体横断像、T2強調画像】
【MRI、下垂体横断像、T2強調画像】
【MRI、下垂体横断像、T1強調画像】
【MRI、下垂体横断像、T1強調画像】

 

 

副腎皮質機能亢進症(hyperadrenocorticism;HAC、クッシング症候群)の多くは、下垂体の腫瘍(多くが下垂体腺腫)による下垂体依存性副腎皮質機能亢進症(pituitary-dependent hyperadrenocorticism;PDH)であり、その中でも微小腺腫(microtumor)と呼ばれる小型のものがほとんどです。微小腺腫は下垂体の中でも前葉(腺性下垂体)と呼ばれる部位に発生することが多いため、下垂体前葉にできた腫瘤によって下垂体後葉*(神経性下垂体)の偏位を確認することなどにより腫瘍を検出します。しかし、小型の下垂体前葉腫瘍は本症例のように画像上認識できない場合でも、腫瘍を除外することはできません。

 

*下垂体後葉は下垂体中心部のやや背側に位置し、T1強調画像で高信号を呈するため、造影剤を投与する前のT1強調画像で確認することが容易です(橙矢頭)。T1強調画像で高信号を呈するのは、後葉から分泌されるバソプレシンを含む神経分泌顆粒の量などを反映していると考えられており、中枢性尿崩症では、その貯蔵がなくなるために信号が消失するのが特徴となっています。また、下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬においても、下垂体後葉はT1強調画像の信号強度が有意に低くなっていたとの報告もあります。

 

正常な下垂体はトルコ鞍(下垂体窩)に納まっており、背側は平坦でトルコ鞍の背側を超えないため、矢状断像で下垂体の背側縁が盛り上がっていたり、トルコ鞍の背側を超えている場合には腫大を考えます。また、以下のPBRというものを用いて下垂体の腫大の程度を判断することもあります。

 

PBR(pituitary gland height-to-brain area ratio,P:B ratio,下垂体-脳面積比)
PBRとは、下垂体性副腎皮質機能亢進症の犬において、下垂体の高さ(mm)÷同断面での脳面積(mm2)×100で表される、脳面積に対する相対的な下垂体の背側方向への腫大の程度を示したものであり、0.31以下が正常となります。

 

例(以下の症例):下垂体高3.0mm÷同断面での脳面積2075 mm2×100=0.144
となり、0.31なので腫大はないと判断されます。しかし、前述したように、下垂体腫瘍は小型の腺腫が多いため、PBRはあくまでも腫大しているかどうかの判断となり、微小腺腫がないという判断はできません。

 

【MRI、矢状断像、T1強調画像】
【MRI、矢状断像、T1強調画像】
【MRI、下垂体横断像、造影T1強調画像】
【MRI、下垂体横断像、造影T1強調画像】

 

<下垂体嚢胞(pituitary cyst)>
580頭の下垂体疾患の臨床兆候のない犬のMRIを調べた報告において、78頭(約13%)で下垂体になしかしらの病変があり、その中でも下垂体嚢胞性病変が最も多く、31頭(約5%)に認められており、実際に撮影していても下垂体嚢胞は比較的よく見かけます(その他、empty sella トルコ鞍空虚など)。また、31頭のうち、74%が短頭種であり、短頭種により多く見られると言われています。下垂体嚢胞は人でもよく見られる所見であり、ラトケ嚢胞(Rathke cleft cysts、粘液性のためT1強調画像で高信号)という型が多くみられますが、獣医療においてはまれと言われています。

 

【参照文献】
Kooistra HS, Voorhout G, Mol JA, Rijnberk A. Correlation between impairment of glucocorticoid feedback and the size of the pituitary gland in dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism. J Endocrinol. 1997 Mar;152(3):387-94. doi: 10.1677/joe.0.1520387. PMID: 9071959.

 

Travetti O, White C, Labruyère J, Dunning M. Variation in the MRI appearance of the canine pituitary gland. Vet Radiol Ultrasound. 2021 Mar;62(2):199-209. doi: 10.1111/vru.12938. Epub 2020 Dec 22. PMID: 33350547.

 

Taoda T, Hara Y, Masuda H, Teshima T, Nezu Y, Teramoto A, Orima H, Okano S, Tagawa M. Magnetic resonance imaging assessment of pituitary posterior lobe displacement in dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism. J Vet Med Sci. 2011 Jun;73(6):725-31. doi: 10.1292/jvms.10-0192. Epub 2011 Jan 11. PMID: 21233596.

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。