<症例> ボストンテリア、10歳、未避妊雌
てんかん発作を繰り返すとの主訴で来院されました。
神経学的検査を行ったところ、神経学的な明らかな異常はなく、一般状態も特に問題はありませんでした。てんかん発作の精査のために頭部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、脳に大きな異常は認められませんでしたが、偶発的に小脳尾側の大後頭孔への突出像(キアリ様奇形:水色矢印)、C2レベルの脊髄で背側からの圧排像(環軸バンド:緑矢印)が認められました。また撮像範囲内の頚髄背側寄りがT2強調画像で顕著な高信号、T1強調画像で低信号を呈し、増強効果に乏しいことから、脊髄空洞症が疑われました(*)。脳に画像上異常は認められず、脳脊髄液上も異常が認められなかったため、年齢を考慮すると、てんかん発作は原因不明のてんかんと考えられました。
<キアリ様奇形,Chiari like malformation(CM)>
キアリ様奇形とは後頭骨の奇形により小脳の尾側の一部が大後頭孔に突出(もしくは脊柱管内に突出,herniation)する頭頚接合部領域の異常のことをいい、犬、特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルで好発しますが、チワワなどの小型犬でもよく見られます。人のキアリI型奇形に似た先天性の疾患であるため、キアリ”様”奇形と呼ばれています。キアリ様奇形の症例は、頭頚部接合部領域での脳脊髄液の循環障害が生じ、二次的に脊髄空洞症/水脊髄症(Syringomyelia/hydromyelia)を引き起こすと言われています。
また、キアリ様奇形や尾側後頭部奇形症候群(Caudal Occipital Malformation Syndrome,COMS)などの頭頚部接合部領域の異常がある症例では、環軸関節の接合部や延髄頚髄移行部において、様々な程度に脊髄背側のくも膜下腔の狭小化や頚髄背側の圧迫が認められることがあります。この構造は環軸バンド(Atlantoaxial bands,AAバンド)とも呼ばれ、石灰化や骨化を伴う炎症性線維性結合組織からなる構造物と考えられており、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル36頭を調べた報告では、36頭中34頭にキアリ様奇形が認められ、環軸バンドがそのうち31頭に認められています。また、同報告において、環軸バンドはキアリ奇形の症例での症状の有無や重症度、脊髄空洞症の有無や重症度に関連するとも報告されています。
【参考文献】
Cerda-Gonzalez S, Olby NJ, Griffith EH. Dorsal compressive atlantoaxial bands and the craniocervical junction syndrome: association with clinical signs and syringomyelia in mature cavalier King Charles spaniels. J Vet Intern Med. 2015 May-Jun;29(3):887-92. doi: 10.1111/jvim.12604. Erratum in: J Vet Intern Med. 2020 May;34(3):1357. PMID: 25996662; PMCID: PMC4895407.
Loughin CA. Chiari-like Malformation. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2016 Mar;46(2):231-42. doi: 10.1016/j.cvsm.2015.10.002. Epub 2015 Nov 27. PMID: 26631589.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。