<症例> ミニチュア・ピンシャー、3歳、避妊雌
半年前から何となく様子がおかしかったが、最近になり前よりさらに変な歩き方をする、頭が揺れることがあるとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、運動失調、測定過大(大げさな動作になる)、企図振戦(動作をしようとした時に震えが強くなる)などが認められ、小脳の異常が疑われたため、精査のため頭部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、小脳は正常に比べやや小さく認められ、それにより周囲の脳脊髄液(CSF)が増加し、小脳溝も明瞭に見られました。その他の脳実質に大きな異常は認められませんでした。よって、本症例は経過から小脳皮質アビオトロフィー(CCA)が疑われました。
<小脳皮質アビオトロフィー;cerebellar cortical abiotrophy(CCA)>
生まれた時の小脳は正常であるが、形成された小脳組織が慢性進行性に細胞脱落(実質がなくなっていく)していくことを特徴とした変性性神経疾患のことで、詳しくはまだわかっていませんが遺伝的な要素が関係していると考えられています。慢性進行性の疾患であり、出生時は正常ですが、その後徐々に進行していきます。臨床症状は運動失調、測定障害、頭部振戦といった小脳症状であり、早期に起こるものもあれば(early onset)、遅発性のもの(late onset)もあり、様々な犬種で報告があります。
MRIの所見としては、本症例のように小脳の萎縮が認められますが、本疾患に特異的というわけではなく、確定診断とはならず基本的には死後の病理検査での診断となります。画像上鑑別が必要な疾患としては小脳低形成(cerebellar hypoplasia)が考えられますが、小脳低形成は生まれつきの奇形であり、小脳の形や症状は進行しないということが小脳皮質アビオトロフィーとの大きな違いとなります。
本症例は発症するまでは正常であり、症状に気づき始めてから徐々に進行しているため、臨床症状と合わせ、小脳皮質アビオトロフィーが疑われました。残念ながら本疾患の効果的な治療法はなく、またMRIで確定診断ができるわけではないですが、脳炎や脳腫瘍などの特に早期発見早期治療が重要な脳の疾患を除外する意味でも重要な検査となります。特に慢性進行性の疾患の場合、なかなか最初は症状に気づきにくいことが多いですが、少しでも気になることがあればご相談ください。
【参考文献】
Kwiatkowska M, Pomianowski A, Adamiak Z, Bocheńska A. Magnetic resonance imaging and brainstem auditory evoked responses in the diagnosis of cerebellar cortical degeneration in american staffordshire terriers. Acta Vet Hung. 2013 Mar;61(1):9-18. doi: 10.1556/AVet.2012.054. PMID: 23439286.
Gumber S, Cho DY, Morgan TW. Late onset of cerebellar abiotrophy in a boxer dog. Vet Med Int. 2010 Dec 5;2010:406275. doi: 10.4061/2010/406275. PMID: 21151662; PMCID: PMC2997505.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。