<症例> 小型の雑種犬、7歳、避妊雌、4.5kg
昨日から突然四肢に力が入りにくくなったとのことで来院。
神経学的検査を行ったところ、頚部痛及び四肢の不全麻痺が認められました。
レントゲン検査上は明らかな異常は認められませんでした。
神経学的検査より、頚部脊髄の異常が疑われたため、頚部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、第3頚椎と第4頚椎の椎間(C3-4)において脊髄が腹側から圧迫されている事が確認されました(水色矢頭)。脊髄を圧迫している物質は、一般的な椎間板ヘルニアと異なり、T2強調画像でとても白く(高信号)、T1強調画像でやや黒く(やや低信号)に見られました。これは、MRIでは液体に近い成分であることが意味します。よって、MR画像所見から、椎間板ヘルニアの中でも水和髄核逸脱(Hydrated nucleus pulposus extrusion:HNPE)と診断されました。また、圧迫されている領域の脊髄がT2強調画像でやや白く見られたため、圧迫により脊髄が浮腫を起こしていることも疑われました。
本症例の椎間板から飛び出した物質は、T2強調画像と言われる画像でとても白く見えますが(水色矢頭)、一般的な椎間板ヘルニアの例の横断像の画像を見ると、飛び出している物質がT2強調画像で黒く見えています(黄矢頭)。飛び出した椎間板の硬さは症例によって微妙な差はありますが、本症例は極端に白く見えているのも特徴の一つです。
<水和髄核逸脱(Hydrated nucleus pulposus extrusion:HNPE)>
水和髄核逸脱とは、一般的な椎間板ヘルニア(Hansen I型・II型に分類されるタイプ)とは異なり、飛び出る物質が液体〜ゼラチンのような水により近い性状であるため、MRIでは本症例のように特徴的な所見となります。
発症は頚部で起こることが多いため、四肢の不全麻痺〜麻痺といった症状が見られることが多いですが、稀に胸腰部で発生することもあります。
また、非軟骨異栄養犬種、軟骨異栄養犬種(ダックスフンドなど)のどちらにも発症するため、様々な品種で見られるのも特徴です。
水和髄核逸脱は飛び出す物質が液体に近い成分であることから、MRIで飛び出した椎間板物質の性状/状態を正確に捉えることができます。水和髄核逸脱の予後は、内科治療、外科治療のどちらも良好な経過をたどると言われており、MRIにおいて水和髄核逸脱と診断できることにより、予後の推測も可能となります。また、この症例はMRIで圧迫されている脊髄にも浮腫を疑うような所見が認められましたが、そういった微細な脊髄の変化を見る事ができるのもMRIの特徴です。
*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。