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さいとう動物病院富岡総合医療センター|夜間救急|CT・MRI|群馬県で高度動物医療 > #29 四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA;上丘液体貯留)【画像診断】
2023.12.06
画像診断
#29 四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA;上丘液体貯留)【画像診断】

<症例> フレンチ・ブルドッグ、6ヶ月齢、雌
(#28と同症例となります)

 

前回、#28先天性水頭症【画像診断】において、水頭症のご紹介をさせて頂きました。その際に認められた四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(黄矢頭、Supracollicular fluid accumulation;上丘液体貯留)について今回はご紹介させて頂きます。

 

四丘体槽とはくも膜下槽の一つで、くも膜下槽とはくも膜下腔(脳を覆う髄膜のうち、軟膜とくも膜の間の脳脊髄液で満たされている空間)が所々で膨大している部分のことを指し、 四丘体槽は中脳の 四丘体と呼ばれる部位の背側に位置します(下記画像参照)。

 

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像(正常)、T2強調画像】
【MRI、矢状断像(正常)、T2強調画像】

 

【MRI、病変部の横断像】
【MRI、病変部の横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像(正常)、T2強調画像】
【MRI、横断像(正常)、T2強調画像】

 

 

脳のMRIを撮像していると、偶発的にこの 四丘体槽部(上丘)に液体貯留所見が認められることがあります(四丘体槽部の嚢胞状液体貯留、SFA、Supracollicular fluid accumulation;上丘液体貯留、以前は四丘体槽部のくも膜嚢胞や 四丘体嚢胞(QC)などと呼ばれていました)。実際に、脳のMRI撮像を行った犬を対象にした報告では、おおよそ0.7〜2.2%の犬に四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)が認められたとのことでした。小型の短頭種で見られることが多く、特にシーズーに多く見られ、その他チワワやマルチーズが好発犬種と言われています。
解剖学的な位置から、小脳もしくは後頭葉(前脳)、またはそのどちらも圧迫されることがあります。それらがどれだけ圧迫されているかを見るための圧迫率の算出方法を以下に記します。

 

四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)による小脳圧迫率(正中矢状面のT2強調画像で算出)
骨性小脳テントの先端と閂*を結んだ線の長さを100%とし(赤線:予測される通常の長さとする)、実際の長さ(青線)との比を算出する(%)
(*閂:延髄の背側面の尾側レベルの正中線上の点で菱形窩または第四脳室の後角の境)

 

四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)による前脳圧迫率(正中矢状面のT2強調画像で算出)
骨性小脳テントの先端と嗅神経接合部までの長さを100%とし(赤線:予測される通常の長さとする)、実際の長さ(黄線)との長さの比を算出する(%)

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】

 

 

本症例の場合、小脳の圧迫はほぼなく、前脳の圧迫率を算出すると14.4%となりました。四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)についての報告では、後頭葉の平均圧迫率は、臨床症状のある犬で17%、症状がない犬で10%であり、後頭葉の圧迫は14%で常に痙攣などの臨床症状と関連していたということでした。また、小脳の圧迫率に関しては平均18%であったが、臨床症状との関連は認められなかった、小脳及び前脳の両方の圧迫で臨床症状を示す可能性が上昇するとのことでした。これらから、本症例は前脳の圧迫率が14.4%であったことから、臨床症状を引き起こす可能性がある、ということになりますが、本症例に関しては前回ご説明したように、水頭症がかなり重度に認められたことから、メインの病態としては先天性の水頭症となります。実際に、四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)が認められた犬の70%で側脳室が拡大していたと報告されており、これは中脳水道や第四脳室の圧迫による二次的な閉塞性の水頭症ではなく、犬種に関連したものの可能性が高いということでした。

 

四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(SFA)は画像上から、第三脳室が背尾側に拡大し、四丘体槽は正常または最小限の拡大のパターン(SFA-Ⅲ)、第三脳室と 四丘体槽の両方が拡張しているパターン(SFA Ⅲ-QC)、 四丘体槽のみ拡大しているパターン(SFA-QC)の3つに分けられ、それぞれ49.54%(SFA-Ⅲ)、36.93%(SFA Ⅲ-QC)、13.51%(SFA-QC)の割合で認められと報告されており、本症例は第三脳室が背尾側に拡大しているパターン(SFA-Ⅲ)でした。

 

 

【参考文献】

Bertolini G, Ricciardi M, Caldin M. MULTIDETECTOR COMPUTED TOMOGRAPHIC AND LOW-FIELD MAGNETIC RESONANCE IMAGING ANATOMY OF THE QUADRIGEMINAL CISTERN AND CHARACTERIZATION OF SUPRACOLLICULAR FLUID ACCUMULATIONS IN DOGS. Vet Radiol Ultrasound. 2016 May;57(3):259-68. doi: 10.1111/vru.12347. Epub 2016 Feb 15. PMID: 26880608.

 

Bazelle J, Caine A, Palus V, Summers BA, Cherubini GB. MRI characteristics of fourth ventricle arachnoid diverticula in five dogs. Vet Radiol Ultrasound. 2015 Mar-Apr;56(2):196-203. doi: 10.1111/vru.12218. Epub 2014 Nov 11. PMID: 25385344.

 

Matiasek LA, Platt SR, Shaw S, Dennis R. Clinical and magnetic resonance imaging characteristics of quadrigeminal cysts in dogs. J Vet Intern Med. 2007 Sep-Oct;21(5):1021-6. doi: 10.1892/0891-6640(2007)21[1021:camric]2.0.co;2. PMID: 17939559.

 

 

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。