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診療実績

2023.12.04
画像診断
#28 先天性水頭症【画像診断】

<症例> フレンチ・ブルドッグ、6ヶ月齢、雌

 

兄弟犬と比べると、しつけの覚えが悪く、ぼーっとしていることが多くあまり他の子と遊ぶ様子がなく、呼んでも目があまり合わないということで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、両眼の視覚障害及び四肢の姿勢反応の低下が認められ、精査のためMRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、脳室(主に側脳室)がびまん性に著明に拡張しており、視床間橋の平坦化、透明中隔の欠損*が認められました。また、四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(Supracollicular fluid accumulation;上丘液体貯留)も認められました(黄矢頭)。また、脳室の拡大により、脳の実質の部分はかなり菲薄化しており、脳溝(脳のしわの部分)も不明瞭化していたことから脳圧亢進も考えられました。

 

 

【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像(正常)、T2強調画像】
【MRI、矢状断像(正常)、T2強調画像】

 

【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像(正常)、T2強調画像】
【MRI、横断像(正常)、T2強調画像】

 

【MRI、背断像、T2強調画像】
【MRI、背断像、T2強調画像】
【MRI、背断像(正常)、T2強調画像】
【MRI、背断像(正常)、T2強調画像】

*透明中隔(septum pellucidum)とは左右の側脳室を隔てる構造のことで、水頭症の症例で欠損することが多いと言われていますが、症状のない脳室拡大の症例でも偶発的に見られることもよくあります。

 

<先天性水頭症>
多くは小型の短頭種やトイ犬種に認められ、チワワをはじめとして、トイ・プードル、ヨークシャーテリア、パグ、ポメラニアンなどの犬種に多く発症します。また、稀ではありますが、猫での発症も報告されています。症状は意識障害、行動異常、感覚障害などがあり、具体的には目があまり見えていない、痴呆のような症状、ぼんやりしている、怒りっぽい、トイレのしつけができないなどです。また、外観はドーム状の頭蓋や外側腹斜視(黒目が外側を向いている)といった特徴を呈することもありますが、外観だけで判断できるものではなく、MRI、CT、超音波検査などの画像検査における診断が必須となります。同様に、MRIで脳室が拡大しているからといって、先天性水頭症の診断を下せるわけではなく、MRIで他に脳室拡大を引き起こすような病変がない、水頭症による臨床症状が発現していることなど、総合的な判断により診断されます。

 

水頭症は原因により先天性水頭症と後天性水頭症に分けられます。水頭症というと、チワワなどでよくみられる先天的な形態異常(すなわち奇形)による先天性水頭症を指すことが多いですが、後天性水頭症には腫瘍により脳室(特に中脳水道)が圧迫/閉塞されることによる二次的な水頭症や、脳脊髄液(CSF)を過剰に産生するタイプの腫瘍(脈絡叢腫瘍)によるものなどがあります。また、他に水頭症の分類方法として、内水頭症(脳室内へのCSF貯留が顕著)/外水頭症(くも膜下腔へのCSF貯留が顕著)や、非交通性水頭症(脳室系に閉塞がある)/交通性水頭症(脳室系に閉塞がなく、CSF産生過剰や吸収障害などによる)、症候性水頭症/無症候性水頭症などがあります。

 

MRIを撮像していると、以下の画像のように側脳室が拡大していたり、側脳室の大きさに左右差が認められる症例にはよく遭遇します。特に小型の短頭種といった水頭症の好発犬種と言われる犬種に多くみられます。しかしこういった症例は特に水頭症の症状がなく、偶発的な所見と考えられます。脳室拡大はしているが症状がない犬と症状がある内水頭症の犬のMR画像を比較検討した報告もあり、臨床症状を伴う内水頭症ではventricle/brain-index(脳室/脳インデックス)**が0.6以上、視床間橋の扁平化、脳室周囲の浮腫、脳梁の背側偏位、嗅球腔の拡張、皮質溝/くも膜下腔(いわゆる脳溝)の菲薄化、尾状核に隣接する内包の離開が認められたと報告されています。

 

【MRI、横断像(他の症例)、T2強調画像】
【MRI、横断像(他の症例)、T2強調画像】
【MRI、背断像(本症例)、T2強調画像】
【MRI、背断像(本症例)、T2強調画像】

 

 

**ventricle/brain(VB)-index(脳室/脳インデックス)は、背断像において、脳室の境界間の最大連続距離(赤線)を、同じ断面における脳実質の最大の幅(黄線)で割ったものとなり、本症例は0.87と、0.6を有意に超えていました(上記画像参照)。

 

次回(#29)は、本症例で認められた四丘体槽部の嚢胞状液体貯留(Supracollicular fluid accumulation;上丘液体貯留)についてご紹介させて頂きます。

 

 

【参考文献】

Laubner S, Ondreka N, Failing K, Kramer M, Schmidt MJ. Magnetic resonance imaging signs of high intraventricular pressure–comparison of findings in dogs with clinically relevant internal hydrocephalus and asymptomatic dogs with ventriculomegaly. BMC Vet Res. 2015 Aug 1;11:181. doi: 10.1186/s12917-015-0479-5. PMID: 26231840; PMCID: PMC4522113.

 

Pivetta M, De Risio L, Newton R, Dennis R. Prevalence of lateral ventricle asymmetry in brain MRI studies of neurologically normal dogs and dogs with idiopathic epilepsy. Vet Radiol Ultrasound. 2013 Sep-Oct;54(5):516-21. doi: 10.1111/vru.12063. Epub 2013 Jun 19. PMID: 23782324.

 

MacKillop E. Magnetic resonance imaging of intracranial malformations in dogs and cats. Vet Radiol Ultrasound. 2011 Mar-Apr;52(1 Suppl 1):S42-51. doi: 10.1111/j.1740-8261.2010.01784.x. PMID: 21392155.

 

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。