case

診療実績

2023.12.01
画像診断
#27 脳腫瘍(髄膜腫・猫)【画像診断】

<症例> 雑種猫、15歳、避妊雌

 

ここ数ヶ月寝ていることが多く、最近は食欲も減ってきた。年齢によるものかと思って様子を見ていたが、ここ最近は明らかに元気がなく、壁にぶつかったりふらついたりするようにもなったとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、左前後肢の不全麻痺及び左眼の視覚消失などが認められ、頭部の精査のためMRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、右側の後頭葉に頭蓋冠に沿って基底幅の広いやや辺縁分葉状の巨大な腫瘤が認められました。腫瘤はT2強調画像/FLAIR画像/T1強調画像で等〜やや低信号を呈し、造影剤による非常に強く不均一な増強効果を認め、一部では髄膜と連続するデューラルテイルサイン(dural tail sign)も認められ、髄膜腫が最も疑われました。(*dural tail sign及び髄膜腫に関しては、#12 脊髄腫瘍(髄膜腫)【画像診断】もあわせてご参照ください。)

 

 

【MRI、矢状断像、造影T1強調画像】
【MRI、矢状断像、造影T1強調画像】
【MRI、背断像、造影T1強調画像】
【MRI、背断像、造影T1強調画像】

 

【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】
【MRI、横断像、造影T1強調画像】

 

腫瘤内部には、T2*強調画像で低信号域(黒い領域:橙矢頭)が認められ、石灰化あるいはヘモジデリン貯留(出血)が疑われました。また、腫瘤基底部に沿った頭頂骨〜後頭骨には骨肥厚像及び融解像(赤矢頭)が認められました。猫の髄膜腫において、腫瘤内部の石灰化や髄膜腫直上の頭蓋骨が肥厚したり、頭蓋骨の融解もしくは頭蓋骨への浸潤が認められることがあり、これら所見も猫において髄膜腫を疑うポイントとなります。また、腫瘤と脳実質の境にT2強調画像で高信号の領域が認められたことも脳の実質外腫瘍を疑うポイントの一つです。

 

なお、本症例は大脳脳溝の不明瞭化及び大脳正中偏位(midline shift)、テント切痕ヘルニア(水色矢頭)が認められたことから脳圧亢進が示唆されました。

 

 

【MRI、横断像、T2*強調画像】
【MRI、横断像、T2*強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、横断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】
【MRI、矢状断像、T2強調画像】

 

 

*T2*強調画像(ティーツースター:グラディエントエコー法(GRE)という撮像法の一種)は主に出血を検出するのに使用される撮像法で、出血部位が低信号(黒く)に認められます。磁場の不均一さを鋭敏に反映した画像であり、通常のT2強調画像では認識できないような微小な出血も検出することが可能です。しかしT2*強調画像で頭蓋骨が黒く表示されているように、骨や石灰化病変も低信号(黒く)表示されるため、T2*強調画像の低信号域は必ずしも出血というわけではありません。グラディエントエコー法には他に磁化率強調画像(SWI:susceptibility-weighted image)などの撮像法があります。

 

<猫の髄膜腫 meningioma>
猫の髄膜腫は犬と同様に、脳腫瘍(頭蓋内腫瘍)の中で最も多く見られ、猫の脳腫瘍のうち約半数程(多いものだと70%程)は髄膜腫であると言われています。猫の髄膜腫は犬よりも人の髄膜腫に近いと言われ、前回ご紹介したグレード分類のうちグレードI(良性)に分類されるタイプのものが多くなっています。しかしその分進行が緩徐であることが多く、少しずつ腫瘤が頭蓋内で大きくなる場合、頭蓋内の代償機構が働き、症状が出る頃には腫瘍がかなり巨大化していることも少なくありません。猫の髄膜腫の症例は犬の髄膜腫の症例と比較すると、同じような場所の発生でもてんかん発作の症状が出る症例の割合が低いような印象があり、実際飼い主様から見て様子がおかしいとなって来院される際には、かなり脳圧が亢進した状態で、脳ヘルニアを起こしていることも多いです。

 

実際にてんかん発作を起こさないと、なかなか細かな神経症状に気づけないかもしれませんが、てんかん発作以外にも普段より元気がない、ふらつく、同じ方向にくるくる回る(旋回)、目が見えていなさそう、怒りやすくなったなどの性格の変化、無目的に徘徊している、壁に頭を押し付けている、など少しでも気になることがあればご相談ください。

 

 

【参考文献】

Troxel MT, Vite CH, Massicotte C, McLear RC, Van Winkle TJ, Glass EN, Tiches D, Dayrell-Hart B. Magnetic resonance imaging features of feline intracranial neoplasia: retrospective analysis of 46 cats. J Vet Intern Med. 2004 Mar-Apr;18(2):176-89. doi: 10.1892/0891-6640(2004)18<176:mrifof>2.0.co;2. PMID: 15058768.

 

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。