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診療実績

2023.11.18
画像診断
#21 椎間板ヘルニア(進行性脊髄軟化症)【画像診断】

<症例> ミニチュアダックスフンド、6歳、未去勢雄

 

昨日急にキャンと鳴いた後から後肢に力が入りにくくなり、その後、後肢を完全に引き摺るようになってしまったとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、両後肢の麻痺が認められ、深部痛覚も消失しており、胸腰部脊髄疾患のグレード5と判断されました。
レントゲン検査では異常は認められず、経過/症状からも椎間板ヘルニアが最も疑われたため、胸腰部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、T11-12(第11胸椎/第12胸椎間)で、脊髄が左腹側から飛び出した椎間板物質によって重度に圧迫されていました(水色矢頭)。椎間板物質はT11-12椎間よりも頭側へ広がっていました。また、脊髄はおおよそT5(第5胸椎)からL4(第4腰椎)あたりまでT2強調画像で高信号(白い)を呈していました(黄矢頭)。これら所見から、椎間板ヘルニア(Hansen I型)及び脊髄軟化症が疑われました。

 

【MRI、胸部矢状断像、T2強調画像】
【MRI、胸部矢状断像、T2強調画像】
【MRI、腰部矢状断像、T2強調画像】
【MRI、腰部矢状断像、T2強調画像】

 

【MRI、T11-12横断像、T2強調画像】
【MRI、T11-12横断像、T2強調画像】
【MRI、T11椎体中央横断像、T2強調画像】
【MRI、T11椎体中央横断像、T2強調画像】

 

椎間板ヘルニアにより脊髄がT2強調画像で高信号を呈している場合、浮腫や炎症を起こしていることももちろん考えられますが、その他にも出血、壊死、軟化なども考えられます。本症例のように高信号を呈している範囲があまりに広い場合は進行性脊髄軟化症の発症を考慮します。進行性脊髄軟化症は基本的には臨床症状と合わせた評価になりますが、MRI上で進行性脊髄軟化症が示唆されるもしくはリスクが高いと考えられる指標には、矢状断像で脊髄のびまん性T2強調画像高信号域がL2椎体の長さの6倍以上や4.57倍以上の場合であるという報告や、グレード5の犬でSSTSE法(他にHASTE法など)と呼ばれる撮像法において脳脊髄液の信号がL2椎体より7.4倍以上消失している場合であるという報告などあります。

 

本症例は、おおよそではありますが矢状断像において少なくともL2椎体の10倍以上は脊髄がT2強調画像で高信号を呈していたため、進行性脊髄軟化症を発症している可能性が高いと考えられました。

 

<脊髄軟化症 myelomalacia>
脊髄軟化症とは、脊髄が出血性/虚血性壊死を起こすことで、椎間板ヘルニアや交通事故による外傷などによる急性の脊髄損傷後に発症する可能性があります。脊髄軟化症は限局的に起こることもありますが、脊髄に沿って頭尾側に広がるように進行していくことが多々あります(進行性脊髄軟化症 progressive myelomalacia:PMM)。進行性脊髄軟化症は壊死が上行性(頭側)及び下行性(尾側)に進行していく状態を指しますが、特に問題となるのは上行性であり、頚髄へ進行すると、呼吸機能が麻痺するため呼吸不全により窒息死に至ります。

 

2017年の報告では、胸腰部の椎間板ヘルニアを発症した犬のうち、進行性脊髄軟化症を発症した犬は2.0%であり、その内訳はグレード1(背部痛のみ)または2(歩行可能な不全麻痺)が0%、グレード3(歩行不可能な不全麻痺)の犬では0.6%、グレード4(対麻痺、深部痛覚あり)の犬では2.7%、グレード5(対麻痺、深部痛覚なし)の犬では14.5%とされており、グレードが高い程より発症確率が高くなっています。その他、グレード5の症例のうち、フレンチブルドッグはダックスフンドに比較してより進行性脊髄軟化症を発症しやすいという報告などもあります。

 

 

【参考文献】
Okada M, Kitagawa M, Ito D, Itou T, Kanayama K, Sakai T. Magnetic resonance imaging features and clinical signs associated with presumptive and confirmed progressive myelomalacia in dogs: 12 cases (1997-2008). J Am Vet Med Assoc. 2010 Nov 15;237(10):1160-5. doi: 10.2460/javma.237.10.1160. PMID: 21073387.

 

Olby NJ, da Costa RC, Levine JM, Stein VM; Canine Spinal Cord Injury Consortium (CANSORT SCI). Prognostic Factors in Canine Acute Intervertebral Disc Disease. Front Vet Sci. 2020 Nov 26;7:596059. doi: 10.3389/fvets.2020.596059. PMID: 33324703; PMCID: PMC7725764.

 

Balducci F, Canal S, Contiero B, Bernardini M. Prevalence and Risk Factors for Presumptive Ascending/Descending Myelomalacia in Dogs after Thoracolumbar Intervertebral Disk Herniation. J Vet Intern Med. 2017 Mar;31(2):498-504. doi: 10.1111/jvim.14656. Epub 2017 Feb 1. PMID: 28144987; PMCID: PMC5354033.

 

Aikawa T, Shibata M, Asano M, Hara Y, Tagawa M, Orima H. A comparison of thoracolumbar intervertebral disc extrusion in French Bulldogs and Dachshunds and association with congenital vertebral anomalies. Vet Surg. 2014 Mar;43(3):301-7. doi: 10.1111/j.1532-950X.2014.12102.x. Epub 2014 Jan 16. Erratum in: Vet Surg. 2015 Jan;44(1):135. PMID: 24433331.

 

 

※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。