<症例> バーニーズマウンテンドッグ、5歳、去勢雄
頚部を痛がる様子があり、頭が下を向いていることが頻繁に見られるようになり、なんとなく後肢に力が入りにくい。最近は前肢にも力が入らないことが多いとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、四肢の姿勢反応の低下が認められ、精査のためMRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、C5-6(第5頚椎と第6頚椎間)において脊髄が左右から圧迫されている所見がありました(黄矢頭)。C5-6椎間の椎間板の変性は認められますが、ごく軽度であり、明らかな椎間板の突出は認められませんでした。これら所見から、増生した骨(脊椎)により脊髄が左右から圧迫される頚部脊椎脊髄症(ウォブラー症候群)と診断されました。
なお、本症例は脊椎の前後の関節周囲などに、造影増強される所見(赤矢頭)があり、炎症の併発(滑膜炎など)が疑われました。また、圧迫されている領域の脊髄がT2強調画像でやや高信号(少し白い)を呈しており、慢性的に圧迫されたことによる脊髄の線維化(グリオーシス)が考えられました(その他、圧迫による脊髄の浮腫/炎症などの可能性も考えられます)。
<頚部脊椎脊髄症:Cervical Spondylomyelopathy(ウォブラー症候群)>
頚部脊椎脊髄症(CSM)はドーベルマンなどの大型犬やグレート・デーンなどの超大型犬の頚椎に認められる疾患のことで、ウォブラー症候群など様々な呼び方をされており、脊柱管が狭窄することにより頚部の脊髄が圧迫を受けることが特徴です。頚部の脊髄が圧迫されるタイプを簡単に大きく2つに分けると、椎間板関連性(disc-associated)と 骨関連性(Osseous-associated)とに分けられます。椎間板関連性の頚部脊椎脊髄症は一般的に中高齢の大型犬に見られ、腹側からの椎間板の突出や背側を通る靱帯が肥厚することによる圧迫のタイプです。骨関連性の頚部脊椎脊髄症は比較的若い犬に見られることが多く、脊椎(椎弓や関節突起関節など)の形態異常/骨増殖などにより脊髄が圧迫されるタイプです。
大型犬ではC6-7での発症が最も多く、その次にC5-6が多いと言われており、尾側の頚椎での発症が多いことも特徴の一つです。症状は慢性的に進行することが多く、頚部脊髄への圧迫が起こるため、前肢後肢共に影響を受けます(初期は後肢から症状が出ることが多いです)。
慢性的に徐々に進行するため、なかなか初期は気付きにくいかもしれませんが、悪化すると最終的には立てなくなってしまいます。特に大型犬の場合は、完全に立てなくなってしまった場合に小型犬に比べ負担がより大きいかと思います。少しでも気になることがありましたらいつでもご相談下さい。
da Costa RC. Cervical spondylomyelopathy (wobbler syndrome) in dogs. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2010 Sep;40(5):881-913. doi: 10.1016/j.cvsm.2010.06.003. PMID: 20732597.
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。