<症例> イタリアン・グレーハウンド、12歳、未去勢雄
1ヶ月前に初めて発作を起こし、昨日2回目の発作を起こしたとのことで来院されました。元気食欲などは特に問題ないとのことで、一般状態及び血液検査上も発作を起こすような明らかな異常は認められませんでした。神経学的検査上も特に異常は見られませんでしたが、12歳と高齢であることから、脳腫瘍や脳梗塞、出血などの脳の構造的な異常によるてんかん発作の可能性も十分考慮されたため、精査のために頭部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、脳に加齢性の萎縮を示唆するような所見が認められた以外には、脳に発作を起こすような器質的変化は認められませんでした。脳脊髄液検査上も異常は認められませんでした。
本症例は、若齢犬の横断像と比較すると、側脳室などの脳室の代償性の拡大や脳溝の明瞭化(脳のしわの部分、くも膜下腔の拡大)、灰白質と白質のコントラストの不明瞭化(脳の外側の皮質と内側の白質の境目が分かりにくい)が認められており、脳の萎縮が疑われました。しかし、これは異常ではなく、年齢を考慮すると正常な生理的な加齢性の脳萎縮であると判断できます。この画像所見が若齢で見られると異常な脳萎縮の可能性も考慮されます。その他、高齢犬では、脳室周囲の白質や深部白質にT2強調画像/FLAIR画像で高信号の所見(グリオーシスやラクナ梗塞など)や偶発的に微小な脳出血が認められることもよくあります。
特に認知機能不全症候群(いわゆる認知症、痴呆症:CDS)の犬の脳萎縮の判断基準として、視床間橋の厚み(MRI横断像参照)の測定も実施されており、認知機能不全症候群の症状を呈する高齢犬はこの厚みが5.0mmを下回ると言われています*。
本症例は、MRI検査及び脳脊髄液検査で異常が認められませんでしたが、初めててんかん発作を起こした年齢が12歳と高齢であるため、いわゆる特発性てんかんには分類されません。しかし、初めの発作が6ヶ月齢から6歳に当てはまらない場合でもMRI検査及び脳脊髄液検査で異常が認められないことはよくあり、この様な場合には原因不明のてんかんに分類されます。
てんかんの診断の国際的な基準を規定している国際獣医てんかん特別委員会(IVETF:The International Veterinary Epilepsy Task Force)は、反応性の発作(発作の原因が脳以外にあるもの)が除外された以下の4つのうちのどれかに当てはまる犬に対して脳のMRI検査及び脳脊髄液検査を推奨しています**。
・てんかん発作の発症年齢が6ヶ月未満あるいは7歳以上
・発作を起こしていないとき(発作間欠期)に神経学的な異常が認められる場合
・てんかん発作重積あるいは群発発作の場合
・特発性てんかんであろうと診断されたが、1つの抗てんかん薬による治療で発作のコントロールができなかった場合
特に初めて我が子がてんかん発作を起こしてしまった場合には不安になってしまうかと思います。てんかん発作は適切な診断プロセス及び検査が必要となってきますので、当院にご相談ください。
*Hasegawa D, Yayoshi N, Fujita Y, Fujita M, Orima H. Measurement of interthalamic adhesion thickness as a criteria for brain atrophy in dogs with and without cognitive dysfunction (dementia). Vet Radiol Ultrasound. 2005 Nov-Dec;46(6):452-7. doi: 10.1111/j.1740-8261.2005.00083.x. PMID: 16396259.
**De Risio, L., Bhatti, S., Muñana, K. et al. International veterinary epilepsy task force consensus proposal: diagnostic approach to epilepsy in dogs. BMC Vet Res 11, 148 (2015). https://doi.org/10.1186/s12917-015-0462-1
※当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。