<症例> ラブラドールレトリーバー、1歳、避妊雌
8ヶ月齢の時に初めて30秒程の痙攣発作を起こし、その後元気だったので様子を見ていたが、本日数十秒ほどの痙攣発作を3回起こしたということで来院されました。
一般状態は特に問題なく、血液検査上も発作を起こすような異常は認められませんでした。神経学的検査上も特に異常はなく、特発性てんかんの可能性が疑われましたが、一日のうちに複数回発作を起こした(=群発発作)ということもあり、精査のために頭部MRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、脳に発作を起こすような器質的な異常は認められませんでした。MRI検査後、脳脊髄液の採取も実施しましたが、特に異常は認められなかったため、特発性てんかんという診断結果(除外診断)となりました。
本症例の横断像の画像を見てみると、側脳室の形は左右対称にみえていますが、他の症例の横断像を見てみると、側脳室の大きさが左右でかなり異なっています。側脳室は左右対称で拡大していないことがもちろん正常ではあるのですが、他の症例として紹介しているような左右対称ではなく、かつ正常よりも拡大している場合も偶発的によく見られます。
<特発性てんかん>
初めててんかん発作を起こした年齢が犬で6ヶ月〜6歳かつ、24時間以上の間隔を空けて2回以上のてんかん発作を起こし、血液検査や神経学的検査、MRI検査及び脳脊髄液検査などで異常が認められない病態のことを言います。遺伝的な背景が疑われており、てんかん発作時以外は神経学的な異常も認められず、脳波検査でしか異常が認められません。そのため、MRI検査や脳脊髄液検査は、他にてんかん発作を起こすような異常がないか確かめるための除外診断となります。確定診断は、大学病院などの神経科専門医で行われる脳波検査と言われる特殊な検査で、脳波に特徴的な異常が認められた場合になりますが、脳波検査まで実施することはかなり稀です。
*頭部MRI検査を実施するような症例では、脳脊髄液(CSF)は一般的には赤矢印のように後頭部のすぐ後ろあたりから針を挿入し、大槽(小脳延髄槽:赤丸)と呼ばれる部位から採取します。脳にとても近い場所で繊細な手技となるため、麻酔下での採取が必須となっており、通常MRI検査後に実施します。
通常、6ヶ月〜6歳で発作を起こした場合には特発性てんかんがまず疑われることが多いですが、てんかん発作を起こす他の脳の異常に、脳炎や脳腫瘍があります。脳炎は特に発症年齢が特発性てんかんと類似しているため、脳炎の好発犬種(チワワ、トイプードル、ポメラニアン、ヨークシャテリア、パグなど)では特に注意が必要です。
特発性てんかんと診断された場合には、通常抗てんかん薬を用いて発作のコントロールをしていきます。しかし、脳炎の場合には発作のコントロール以外の治療(免疫抑制治療など)が必要となります。また、脳腫瘍は高齢での発症が多いですが、比較的若い年齢で発症することもあります(フレンチブルドッグのグリオーマなど)。そのため、特に上記のような犬種では、MRI検査を受けることによって、特発性てんかんであるのか、脳に器質的な異常があるのかを区別してあげることにより、早期に適切な治療を行うことが可能となります。
De Risio, L., Bhatti, S., Muñana, K. et al. International veterinary epilepsy task force consensus proposal: diagnostic approach to epilepsy in dogs. BMC Vet Res 11, 148 (2015). https://doi.org/10.1186/s12917-015-0462-1
*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。