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2023.11.08
画像診断
#15 中耳炎・内耳炎【画像診断】

<症例> 雑種猫、16歳、未避妊雌

 

1ヶ月前頃から急に倒れるようになり、その頃から食欲も低下しているとのことで来院。
神経学的検査では、四肢の姿勢反応低下が認められた。
レントゲン検査では異常は認められず、精査のために頭部MRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、左右の鼓室胞内(中耳)の内腔を占拠する内容物が認められました。この内容物自体には造影効果は認められず、周囲の鼓室胞壁(中耳の内張の部分)は全周性に著明に肥厚し、造影されており、特に右側で顕著でした。両側の内耳信号はFLAIR画像で抑制されていませんでした(画像上黒くなっておらず、内耳が確認できる:黄色丸)。この画像所見より、両側の重度中耳炎が疑われ、内耳炎併発も併せて疑われました。また、右内耳の近くに位置する髄膜がわずかに造影されているように見られ、内耳炎から髄膜炎を併発している可能性も考慮されたため、脳脊髄液採取も併せて実施いたしました。

 

【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】<br>本症例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】
本症例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】<br>正常例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】
正常例

 

【MRI、中耳/内耳レベル横断像、造影T1強調画像】<br>本症例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、造影T1強調画像】
本症例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、造影T1強調画像】<br>正常例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、造影T1強調画像】
正常例

 

【MRI、中耳/内耳レベル横断像、T2強調画像】<br>正常例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、T2強調画像】
正常例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】<br>正常例
【MRI、中耳/内耳レベル横断像、FLAIR画像】
正常例

 

FLAIR画像(フレアー、Fluid Attenuated Inversion Recovery )とは、液体信号を減弱させた撮像方法であり、簡単に説明するとT2強調画像で白く見える(高信号)液体を黒くさせる(無信号)画像のことです。内耳はリンパ液で構成されているため、FLAIR画像で抑制され見えませんが、感染・炎症が内耳に波及し、リンパ液に影響を与えることによって、FLAIR画像で抑制されずに可視化されます。また、今回は当てはまりませんが、内耳炎を併発していると内耳に造影効果を認めることもよくあり、内耳炎を診断する上でのポイントとなります。特に内耳炎を併発している場合、近くの髄膜に感染・炎症が波及することもしばし認められ、ひどい場合には頭蓋内において膿瘍を形成することもあります。今回も、髄膜炎の可能性が疑われましたが、脳脊髄液検査の可能性からは髄膜炎を併発している可能性は低いという結果となりました。

 

【MRI、側脳室レベル横断像、T2強調画像】
【MRI、側脳室レベル横断像、T2強調画像】
【MRI、側脳室レベル横断像、FLAIR画像】
【MRI、側脳室レベル横断像、FLAIR画像】

 

上記は側脳室と呼ばれる脳脊髄液(液体)で満たされた空間が分かりやすい画像になりますが、T2強調画像では中身が白い(高信号)であるのに対し、FLAIR画像では黒く(無信号)に見えています。また、脳溝(いわゆる脳のしわの部分)もT2強調画像で白くみえていますが、FLAIR画像では確認できません。T2強調画像では、炎症や浮腫、梗塞といった病変も白く(高信号)に見えて来るため、FLAIR画像を使用し、水を抑制することによって病変と正常な部位の判別も可能となります。

 

このように、MRIでは同じ部位/断面にも複数の撮像方法を併用し、撮像することにより、病変の診断に利用しています。そのため、CTでは1個の部位に1回の撮影で終わる場合も(造影の場合は複数回)、MRIでは何パターンも撮像する分、撮像時間がかかります。しかし、その分、より詳細な評価が可能となります。

 

【MRI、中耳内耳レベル横断像、T2強調画像】
【MRI、中耳内耳レベル横断像、T2強調画像】
【CT、中耳内耳レベル横断像、骨条件】
【CT、中耳内耳レベル横断像、骨条件】

 

上記2つの画像はほぼ同じ断面のMRIとCTの画像です。CTは骨構造が詳細に見えており、骨の評価に関してはCTが勝りますが、脳や内耳は骨構造に囲まれており、内部構造の評価が困難です。

 

前庭疾患は末梢性前庭疾患と中枢性前庭疾患の大きく2つに分けられます。内耳炎は末梢性前庭疾患に分類され、中枢性前庭疾患は脳幹部の異常(脳腫瘍、脳梗塞、脳炎など)で起こります。どちらも同じ前庭疾患であるため、似たような症状(ふらつき、斜頚、眼振など)を呈します。そのため、内耳や脳を詳細に評価できるMRI検査が推奨されます。

 

*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。