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2023.11.03
画像診断
#12 脊髄腫瘍(髄膜腫)【画像診断】

<症例> 雑種猫、10歳、去勢雄、4.8kg

 

半年程前からキャットタワーの昇り降りをあまりしなくなったが、年齢に伴うものかと思い様子を見ていたが、ここ1ヶ月程から後肢に力が入りづらい様子が見られようになったとのことで来院された。
神経学的検査を行ったところ、後肢の不全麻痺が認められました。
レントゲン検査では異常は認められず、胸腰髄の脊髄疾患が疑われたためMRI検査を実施しました。

 

MRI検査を実施したところ、第4腰椎上の脊柱管内左側に、造影剤により明瞭に増強される腫瘤が認められ(橙矢頭)、脊髄腫瘍が疑われました。腫瘤により脊髄は重度に圧排されていました。この腫瘤は脊髄周囲を覆う髄膜に連続するような画像所見(dural tail sign)が認められ、脊髄腫瘍の中でも髄膜腫(Meningioma)が最も疑われ、その他にも独立円形細胞腫瘍(リンパ腫など)や末梢神経鞘腫瘍なども鑑別に上がりました。

 

【MRI、腰部矢状断像、T1強調画像】
【MRI、腰部矢状断像、T1強調画像】
【MRI、腰部矢状断像、造影後T1強調画像】
【MRI、腰部矢状断像、造影後T1強調画像】

 

【MR画像、病変部の横断像、造影後T1強調画像】
【MR画像、病変部の横断像、造影後T1強調画像】
【MR画像、背断像、造影後T1強調画像】
【MR画像、背断像、造影後T1強調画像】

 

造影剤を投与する前のT1強調画像では腫瘤があると思われる場所は(赤丸)、周囲の正常な脊髄との境界がほぼわからず、腫瘤があると判断するのは困難です。しかし、造影剤を投与することにより、腫瘤はかなり境界明瞭に増強されています。また、dural tail signとは、腫瘤から尾を引くように連続して硬膜へ向かうライン(赤矢頭)のことをいい、髄膜由来の腫瘍でよく認められる所見です。髄膜腫は一般的に脳でよく認められる腫瘍ですが、脊髄領域でも発生することが稀にあります。

 

<脊髄腫瘍>
脊髄腫瘍は発生部位により、外側から順に硬膜外腫瘍、硬膜内・髄外腫瘍、髄内腫瘍の大きく3つに分類されます。

 

1.硬膜外腫瘍
脊椎自体の腫瘍や脊椎周囲の軟部組織の腫瘍により、硬膜の外側から脊髄を圧迫します。骨肉腫や線維肉腫、形質細胞腫瘍、血管肉腫、リンパ腫、転移性の腫瘍などが見られます。

 

2.硬膜内・髄外腫瘍
硬膜の内側かつ脊髄の外側に位置する腫瘍で、本症例のような髄膜腫の他、神経鞘腫と呼ばれる腫瘍やリンパ腫などの独立円形細胞腫瘍も見られます。

 

3.髄内腫瘍
脊髄自体に発生する腫瘍で、神経膠腫や上衣腫、リンパ腫などが見られます。

 

 

本症例は髄膜腫に特徴的な画像所見を呈しており、硬膜内・髄外腫瘍のパターンの中でも髄膜腫の可能性が高いとMRIから判断することができましたが、いつもMRIで正確に判断できる訳ではありません。(※本症例は病理組織検査の結果、実際に髄膜腫という結果でした。)

 

また、脊髄腫瘍の症状は腫瘍が発生した部位や大きさ、脊髄の圧迫や周囲の脊髄の浮腫の程度により異なりますが、急性発症することの多い椎間板ヘルニアや脊髄梗塞と比較すると、腫瘍が大きくなるにつれて慢性的かつ進行性に症状が悪化していく特徴があります。腫瘍のため、発生は中齢〜高齢での発生が多いため、症状が加齢に伴う変化と間違われることも多いです。少しでも気になることがあれば、ご相談ください。

 

*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。