<症例> 柴犬、5歳、避妊雌、9.8kg
数日前より、左後肢に力が入りづらい様子があり、徐々にうまく歩けなくなってきたとのことで来院されました。
神経学的検査を行ったところ、四肢の姿勢反応の低下が認められました。
レントゲン上は明らかな異常は認められず、精査のためにMRI検査を実施しました。
MRI検査を実施したところ、主に頚髄及び胸髄が断続的かつびまん性に淡くT2強調画像で高信号(白い)を呈していました(黄色矢頭)。病変部の横断像T2強調画像でも、脊髄が淡く高信号を呈し、造影剤により、僅かに髄膜が増強されているようにも見られました(橙矢頭)。画像所見からは脊髄の炎症が疑われたため、MRI検査後に脳脊髄液の採取を実施しました。採取した脳脊髄液の検査結果より、感染は否定され、画像所見と脳脊髄液の検査結果から、起源不明髄膜脳脊髄炎(MUO)と診断されました。
<髄膜脊髄炎:Meningomyelitis>
脊髄での炎症性疾患は、脳と同様に感染性と非感染性に大きく分かれ、犬では非感染性が多く、猫では感染性が多いです。感染性の髄膜脊髄炎には、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)や犬ジステンパーウイルス(CDV)などのウイルスの他、細菌が原因となることもあります。非感染性の髄膜脊髄炎には起源不明髄膜脳脊髄炎(Meningoencephalomyelitis of unknown origin:MUO)、ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎(SRMA)や特発性好酸球性髄膜脳脊髄炎などがあります。
起源不明髄膜脳脊髄炎(MUO)は、壊死性髄膜脳炎(NME)、壊死性白質脳炎(NLE)、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)の3つの疾患の総称です。以前はこの3つの病名に分類し、それぞれの名称で呼ばれていましたが、これらを生前に正確に診断することは困難であることから、近年はこれらをまとめて起源不明髄膜脳脊髄炎(MUO)と呼ぶようになりました。名前を見てわかるように、原因がはっきりとわかってはいませんが、免疫介在性疾患であると考えられています。脳で病変が見られることが多いですが、脳及び脊髄、もしくは本症例のように脊髄のみに病変が見られることがあります。一般的にMRI検査及び脳脊髄液検査により臨床的に診断されます。
脳脊髄液の採取は麻酔が必要な検査ですが、MRI検査は基本的に麻酔が必要な検査のため、本症例のようにMRI検査で脳脊髄液検査が必要であると判断された場合には、MRI検査後にそのまま脳脊髄液の採取を実施することが可能です。
*当院では、高崎市の「MGL付属高度動物医療センター」にてMRI検査を実施しております。
当院からの指示があった場合を除き、まずは富岡総合医療センターをご受診下さい。