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診療実績

2023.11.08
整形外科
#65 前十字靭帯断裂【整形外科】

9歳のトイプードルの男の子が、散歩後から右後肢を痛がるという主訴で、ご紹介で来院されました。右膝関節の疼痛を認め、重度の膝関節の不安定性(大腿骨と脛骨がぐらぐら動揺すること)を認めました。鎮静下でのレントゲン検査、整形学的検査、関節液検査を実施した結果、前十字靭帯断裂と判断しました。外科手術が第一選択と考えられ、飼主様とご相談の結果、手術に進むこととなりました。
前十字靭帯は完全に断裂してしまっており、半月板(膝の中のクッションの役割をしているもの)も一部割れてしまっていました。関節内のクリーニング、損傷した半月板の部分摘出を行い、前十字靭帯断裂に対する骨矯正手術であるTPLO術を実施しました。
手術には全身麻酔が必要ですが、当院麻酔科の獣医師と連携し、局所麻酔を含む様々な手段を駆使して安全に麻酔管理を終えることができました。
術後は2週間ほどでほぼ正常に歩行できるように回復してくれました。術後3ヶ月が経過し、骨も問題なく癒合認め治療を終了としました。現在も元気に走り回ってくれているとのことで、何よりです。

 

犬において前十字靭帯断裂は一般的に認められる整形学的疾患の1つです。大型犬、小型犬ともに発生します。その原因は靭帯のコラーゲン構造の変性に伴う脆弱化であり、様々な要因が推測されていますが、いまだ完全には解明されていません。近年ではリラキシンというホルモンの関連が示唆されており、要因の1つである可能性があります。今後研究が進むにつれ、予防が可能となるかもしれませんが、現時点では発症を防ぐことはできないため、発症した場合には関節の状態が悪化する前に治療に進むことが重要です。

 

【術前レントゲン】
【術前レントゲン】
【術前レントゲン】
【術前レントゲン】

 

 

【術後レントゲン】
【術後レントゲン】
【術後レントゲン】
【術後レントゲン】

 

【参照文献】
Restucci B, Sgadari M, Fatone G, et al. Immunoexpression of Relaxin and Its Receptors in Stifle Joints of Dogs with Cranial Cruciate Ligament Disease. Animals (Basel) 2022;12.