1歳のチワワの男の子が、元気食欲の低下と痛み、ふらつきを主訴に来院されました。急に何処かを痛がってキャンと鳴き声を上げるとのことでした。触診で首の痛みを認め、神経学的検査では四肢の不全麻痺を認めました。年齢、経過から環軸不安定症が疑われたため、MRI検査に進み、その結果環軸不安定症と診断しました。また水頭症も併発していました。
手術前にCT検査を行い、3Dプリンタで骨模型を作成し、入念に手術計画を立てた上で手術を実施しました。手術は頸部の腹側からピンと骨セメントを用いて環椎と軸椎を固定する方法です。体重2kg以下のとても小さなワンちゃんであり、今後再度MRI検査を行う可能性もあったため、チタン製のピンを用いて手術を行いました。
手術のリスクも麻酔のリスクも高い処置でしたが、当院麻酔科の先生の協力もあり無事に手術を終えることができました。術後の経過も良く、3日で退院ができました。しばらくは装具も併用し安静にしてもらいましたが、痛みもふらつきもなく元気に走り回れるようになってくれました。
環軸不安定症は通常靭帯でしっかりと固定されているはずの環椎(第一頚椎)と軸椎(第二頸椎)が緩んでしまい、脊髄に圧迫などの損傷が加わり神経症状を呈します。原因として歯突起(軸椎の頭側端にある突起)の形成不全、骨化不全や、靭帯の形成不全、環椎背側神経弓の骨化不全などが報告されていますが、それ以外にも原因があると推測されています。それらの異常が組み合わさることで重症度も変化する可能性があり、脳にも異常が認められる場合があります。そのため診断時には頸部の脊髄の状態や脳の状態が評価できるMRI検査が推奨されます。また合併症発生時のリスクも大きい手術のため、当院では事前にCT検査と3Dプリンタで骨模型を作成し、模擬手術を行った上で可能な限り正確で安全な手術が実施できるよう努力しています。
【参照文献】
Takahashi F, Hakozaki T, Kouno S, et al. Epidemiological and morphological characteristics of incomplete ossification of the dorsal neural arch of the atlas in dogs with atlantoaxial instability. American journal of veterinary research 2018;79:1079-1086.