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診療実績

2021.04.19
整形外科
#7 前十字靭帯断裂【整形外科】
先日は前十字靭帯断裂の患者さんが続き、1日に2件の前十字靭帯断裂に対する手術を行いました。

2件目は9歳のわんちゃんで、左後肢を跛行(びっこ)しているとのことで来院されました。身体検査で左膝関節のDrawer徴候(太ももの骨に対してすねの骨がぐらぐら動く状態)を認め、前十字靭帯疾患と判断しました。また膝蓋骨内方脱臼も併発が認められました。

柴のわんちゃんで全身状態も異常なく、将来的な対側肢の前十字靭帯疾患発症リスクも踏まえ飼主様と相談の結果、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)と膝蓋骨内方脱臼整復手術を同時に実施しました。

手術の際にまず関節内を精査したところ、前十字靭帯の完全断裂を確認したとともに内側半月板損傷も確認されたため、半月板の部分摘出も行いました。その後膝蓋骨内方脱臼整復のための滑車溝形成術とTPLOを併用し手術終了としました。

手術に際して全身麻酔が必要となりますが、米国獣医麻酔疼痛管理専門医の小田先生指導のもと、局所麻酔と投薬による徹底した疼痛管理と共に無事に麻酔、手術を終えることができました。

 

前十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)を繋ぐ靭帯で、膝関節の中に存在します。関節の安定化に重要な役割を担っており、主な機能は膝関節の過進展(伸びすぎること)防止、脛骨の内旋(すねの骨が内側にねじれること)制御、大腿骨に対する脛骨の頭側変位(脛骨が前方に飛び出ること)防止です。前十字靭帯が存在することで膝関節が安定して動くことができますが、断裂してしまうと不安定になり、可動時や負重時にぐらついてしまいます。その状態が続くと半月板(大腿骨と脛骨の間にあるクッションの役割をする板)が損傷してしまい、関節の軟骨も徐々にダメージを受けていきます(骨関節症)。進行すると軟骨が薄くなり線維化し、最終的には軟骨面に潰瘍ができます。そうなると神経線維の分布する軟骨の下にある骨が露出し、強い痛みを伴うようになります。前十字靭帯断裂に対する治療方法は外科手術と保存的治療に分かれますが、現時点ではどんな治療をしたとしてもこの骨関節症(変形性関節症、骨関節炎とも呼ばれます)と呼ばれる状態を完全に予防することは残念ながらできません。また進行してしまった骨関節症を確実に治す方法もありません。しかしながら、前十字靭帯断裂に対して早期に外科手術を行うことでこの骨関節症の進行を大きく軽減できる可能性があるため、原則的に外科手術による治療が推奨されています。外科手術の種類や、手術しない場合の治療など、また個別に記載していきたいと思います。ご心配なことがございましたら、獣医師までご相談ください。

【術後レントゲン像】