13歳のヨーキーで、左後肢の跛行を主訴に来院されました。検査の結果、左後肢は膝蓋骨内方脱臼を伴う前十字靭帯疾患と診断しました。このわんちゃんは2年前に右後肢の前十字靭帯断裂に対して手術を受けており、今回残念ながら反対側の左後肢も発症してしまいました。高齢のわんちゃんですがとても元気な子で、飼主様と相談の結果外科手術に進むこととなりました。
手術は先週の患者さん同様、膝蓋骨脱臼と前十字靭帯断裂両者に対して術式を組み合わせて実施しました。前十字靭帯は完全断裂を認め、内側半月板の損傷も認めたため半月板の部分切除及び滑車溝の造溝術、TPLOを実施しました。
高齢患者でありさらに侵襲も強い手術ではありましたが、当院麻酔科医の松浦先生とも連携し徹底した疼痛管理のもと無事に手術を終えることができました。
前十字靭帯疾患はわんちゃんに多い整形学的疾患の1つであり、靭帯機能の低下または損失の結果膝関節に不安定性が生じます。膝関節が不安定となった結果、半月板を損傷してしまうこともよくあります。半月板は大腿骨と脛骨の間にある平らな線維軟骨で、荷重の分散や衝撃の吸収といった役割を担っています。またそれ自体も関節の安定化装置の1つとして安定性に寄与しているとされています。前十字靭帯断裂患者では、33%~83%で初回手術時に半月板損傷があるとされています。犬の半月板はとても小さいため、損傷を認めた際には断裂し痛みの原因となっている部分を切除することが推奨されています。その後TPLOなどの膝関節の安定化手術を行うことで残る半月板を保護する効果も期待できます。しかしながらTPLOを行った後でも3~12%の患者で術後半月板損傷を起こすことが知られており、その場合には半月板損傷に対して再度手術が必要となることもあります。手術の前にはこのような可能性も含めしっかりとお伝えさせて頂けるよう心がけています。
【術前レントゲン】
【術後レントゲン】
【参照文献】
Lampart M, Knell S, Pozzi A. A new approach to treatment selection in dogs with cranial cruciate ligament rupture: patient-specific treatment recommendations.