2歳のポメラニアンのわんちゃんで、右後肢を時々挙上する(ケンケンする)とのことで来院されました。
右後肢では膝蓋骨(膝のお皿の骨)の内方脱臼を認め、診察時にも脱臼させると足を挙げる様子が認められました。この時左後肢にも同様に膝蓋骨内方脱臼を認め、右後肢と同じように脱臼させると足を挙げる様子がありました。現状の病態、将来的な進行や他の疾患を併発する可能性、手術に伴う合併症リスクなどの説明の上で、飼主様と相談した結果両後肢とも手術を行うこととなりました。
手術は膝蓋骨がはまっている溝を深く作り直す手術(滑車溝形成術)、膝蓋骨の付着している筋肉群、靭帯が一直線になるよう靭帯の付け根を整える手術(脛骨粗面転移術)、周囲の軟部組織を調整する手術(内側支帯解放、外側関節包縫縮)を組み合わせるスタンダードな手技で両後肢とも同様に行いました。
手術に際して全身麻酔が必要となりますが、当院の麻酔医である松浦獣医師と連携を取りながら、徹底した疼痛管理を行い無事に麻酔、手術を終えることができました。順調にいけば2,3ヶ月後には元通り運動ができるようになってくれるはずです。
膝蓋骨脱臼は以前にもご紹介した通り、本来大腿骨の溝の上にあるはずの膝蓋骨が内側、または外側に外れてしまう病気です。小型犬では特に内方脱臼が多く認められ、大型犬に比べて12倍の有病率と報告されています。また膝蓋骨内方脱臼の患者のうち約半数は両後肢に罹患しているとされています。当院では、特に症状が強い場合には手術も含め治療をご提案させて頂いていますが、状況によっては両後肢同時の手術も実施する場合があります。左右別々に手術をする場合と同時に手術をする場合、どちらが良いと決まっているわけではありません。しかし同時に手術を行う場合でも合併症発生率は変わらなかったとする報告もあり、当院でも同様の結果を得ています。手術の前には患者の状況と飼主様の意向を含め、徹底的にご相談させて頂くよう心がけています。
【術前画像】
【術後画像】
【参照文献】
1. Balogh DG, Kramek B. Clinical results of single-session bilateral medial patellar luxation repair in 26 small breed dogs. The Canadian Veterinary Journal 2016;57:427.
2. Feldmane L, Theyse LF. Proximodistal and caudocranial position of the insertion of the patellar ligament on the tibial tuberosity and patellar ligament length of normal stifles and stifles with grade II medial patellar luxation in small‐breed dogs. Veterinary Surgery 2021.