8歳のトイプードルのわんちゃんで、高所から落下し左前肢を痛がって挙上しているとのことで来院されました。手首が軽度に腫れており、レントゲンを撮影したところ明らかな骨折は認めないものの、橈側手根骨(手根関節にある小さな7つの骨のうちの1つ)の脱臼を認めました。非観血的な整復が困難であったため、飼主様と相談の結果、外科的に整復を目指すこととなりました。
皮膚を切開し関節を露出すると、橈側手根骨が手首の裏側へ脱臼していることが確認できました。幸いにも骨折は認められなかったため、元の位置に整復し、ピンと人工靭帯で固定をしました。さらに周囲の軟部組織を補強し手術終了としました。
手術に際しては全身麻酔が必要となりますが、米国獣医麻酔疼痛管理専門医の小田先生指導のもと、局所麻酔と投薬による徹底した疼痛管理を行い無事に麻酔、手術を終えることができました。体調の回復も良く、翌日には食欲も旺盛で退院が可能でした。
術後1、2ヶ月は外固定(ギプスなど)が必要ですが、うまく安定してくれれば元に近い状態で歩けるようになってくれるはずです。
橈側手根骨脱臼は滅多にない外傷性疾患ですが、犬でも猫でも少ないものの報告があります。手根関節は複数の小さな骨が合わさって関節を形成していますが、その骨同士を繋いでいる靭帯が切れることで脱臼が起こります。小型の動物では非観血的整復(手術で切開することなく整復する方法)ができる場合もありますが、多くの場合は外科的に整復が必要とされており、今回のように関節の機能を温存して固定できる場合もあります。ただし将来的には変形性関節症(軟骨がダメージを受ける慢性の関節疾患)はどうしても発生すると考えられ、また固定が破綻した場合などには関節固定が必要となる場合もあります。小型犬では落下などの事故で骨折がしばしば認められますが、今回のように関節の問題が起こることもあります。跛行(びっこ)や挙上など、気になる点やご不明な点があれば当院獣医師までご相談ください
【術前レントゲン】
【術後レントゲン】
【参照文献】
1. Piermattei DL, Flo GL, DeCamp CE. Brinker, Piermattei, and Flo’s handbook of small animal orthopedics and fracture repair. 4th ed. St. Louis, Mo.: Saunders/Elsevier, 2006.
2. Palierne S, Delbeke C, Asimus E, et al. A case of dorso-medial luxation of the radial carpal bone in a dog. Vet Comp Orthop Traumatol2008;21:171-176.