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2022.04.30
整形外科
#37 前十字靭帯断裂【整形外科】
12歳4ヶ月の柴犬のわんちゃん、散歩中に左の後ろ足を痛めてしまい、来院されました。痛めた足はつま先だけしか地面に着けられない様子で、触診すると膝に痛みがあることがわかりました。整形学的検査、レントゲン検査、関節液検査を行い、前十字靭帯断裂と診断しました。比較的高齢のわんちゃんでしたが、まだまだ元気であり、もう一度楽しくお散歩させてあげたいというご家族の思いから手術に進むこととなりました。

 手術は全身麻酔で行います。当院の麻酔科医と連携し、局所麻酔も併用して疼痛管理を徹底して行うことで手術中にもほぼ痛がる様子もなく終えることができました。

手術中に関節内を探査すると、前十字靭帯は完全に断裂してしまっていましたが、幸い膝の骨と骨の間のクッションである半月板は損傷していませんでした。切れた靭帯を直接結んだり置き換えたりすることは動物ではまだ現実的な手法として確立していないため、現存の手法の中で最も信頼性のあるTPLOという手術を実施しました。

 術後の体調もよく、1週間後には患肢を使って歩いてくれていました。現在術後1ヶ月が経過していますが、痛みが解消できたようでほぼ違和感がないほど上手に歩いてくれています。

 

 前々回の報告でも書きましたが、イヌで大きな外傷が加わっていないにも関わらず前十字靭帯が切れてしまう原因はまだ完全に解明はされていません。何かしらの原因で靭帯の構造が変化して切れやすくなってしまうとされていますが、きっかけになるものは遺伝的要素、免疫介在性要因、構造的異常、内分泌的影響など様々な推測がなされているものの確定的ではありません。ニューファンドランド、ロトワイラー、ラブラドール、ブルドッグ、ボクサーなどが最も好発する犬種とされていますが、多くの犬種で発症します。現時点で発症を未然に防ぐことが難しいため、早く症状に気づき、治療に入っていくことが大切です。

 

【術前レントゲン】

【術後レントゲン】

 

【参照文献】

 Comerford E, Smith K, Hayashi K. Update on the aetiopathogenesis of canine cranial cruciate ligament disease. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology 2011;24:91-98.