前十字靭帯とは大腿骨と脛骨をつなぐ膝の中の靭帯で、膝を安定化させる靭帯です。この靭帯が切れる事で膝の安定性が失われ、痛みや違和感により跛行(歩行異常)が起こります。
どの犬種でも起こり得る(好発犬種はある)
体重過多はリスク因子となる
4歳以上で多い(小型犬は特に高齢での発生が多い)
小型犬では膝蓋骨脱臼との併発が多い(15-20%程)
30-40%は2年以内に反対肢も断裂する
完全に切れる完全断裂と、部分的に損傷する(ほつれる)部分断裂がある
急性・慢性断裂がありますが、ほとんどは慢性断裂です。
前十字靭帯に慢性的な気弱化・変性が起こり、最終的に断裂を起こします。
急性に見えても実は少しずつ進行した結果の断裂である事がほとんど
前十字靭帯の変性は遺伝的・免疫学的・形態学的・運動学的要因が関与していると言われています。
前十字靭帯断裂は犬の後肢跛行の最も多い原因の一つで、通常急性に症状が現れ、膝の痛みを伴う後ろ足の挙上など重度の跛行が認められます。
靭帯が完全に切れる完全断裂と一部が切れる部分断裂があり、膝のクッションの役割をしている半月板の損傷も伴う場合があります。
いずれの場合でも膝の関節炎は進行していきます。
歩行検査、整形外科学的検査、レントゲン検査などを行います。
靭帯の断裂により膝が不安定となり整形外科学的検査(ドロワー試験、脛骨圧迫試験)で脛骨の前進が確認されます。
レントゲンでは脛骨の前進、関節内の関節液の増加などが確認されます。
正常
異常
内科治療もしくは外科治療を行います。
消炎鎮痛剤の使用、運動制限(1-2ヶ月程)、サプリメントの使用、体重管理、装具の使用(場合により)など
手術により膝を安定化させます。手術を行う事でより正常な膝の機能を取り戻す事が可能で、将来的な関節炎の可能性を減らします。
犬の場合は十字靭帯が重要な役目を持つため基本的には外科手術による治療が望ましい場合が殆どです。
小型犬の場合や内科治療で症状自体は改善する場合でも将来的に関節炎は進行していくため、多くの場合には手術を行った方が良いと考えています。
関節外法
大腿骨の種子骨と脛骨粗面に開けた穴に人工靭帯を通す事で失った前十字靭帯の代わりをさせて膝を安定させる方法です。
小型犬では主にこの関節外法が適応となります。手術時間も短くすみ、大きな合併症も少ないですが、術後すぐは関節の可動域の制限が起きたり、大型犬の場合には術後ゆるみなどが生じたり、改善までに時間がかかる場合があります。
機能的安定化術 脛骨高平部水平化骨切術(TPLO)脛骨粗面前進術(TTA)
関節外法より新しい治療法で、人工靭帯を使う代わりに骨を切り特殊なインプラントで固定する事で膝の構造を変え、膝を力学的に安定化させる方法です。人工靭帯を使用しないため体重の重い大型犬でもゆるみなどが起こらず安定した改善が認められ、関節外法に比べても早期の改善が期待できます。
近年では小さなインプラントが開発され、小型犬でも関節の動きが制限されず早期からの改善が認められるため、小型犬でも機能的安定化術による治療を進めています。
TPLO
TTA
小型犬のTPLO