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診療実績

2023.03.10
整形外科
#57 大腿骨骨折【整形外科】
1歳の柴犬の女の子、自宅から脱走したところを運悪く自動車と接触事故に遭ってしまい、大腿骨骨折と診断されご紹介で来院されました。幸いにも全身状態は安定していましたが、右の大腿骨(太ももの骨)に複雑骨折を認め、手術が必要な状態と判断しました。

手術はプレートを用いて骨を固定する方法で行いました。単純な骨折ではなく遊離骨片を含む複雑骨折であり、さらに若く元気な子であったため、強固な固定を目指して2枚のプレートを用いて固定を行いました。患肢は手術前から内出血でパンパンに腫れ上がっており疼痛も非常に強かったですが、当院麻酔科の獣医師による疼痛管理もあり術後2日後には患肢を使って歩き始めることができるようになりました。術後3ヶ月で骨も完全に癒合し治療終了。特にプレートを抜く必要もなく、元気に運動できるように回復してくれました。

 

小動物の四肢の骨折に対する治療法として主流な方法の1つがプレート固定です。大型小型問わず多くの骨折に適応され、とても安定した治療成果を得ることができます。しかしながら用いるインプラント(プレートやスクリューなどの金属)に関連した合併症が発生する可能性はあり、皮膚炎、冷感過敏症、骨減少症、プレート破綻、スクリューの緩み、変形癒合、癒合不全などが報告されています。中でも骨減少症は、今回のような大腿骨骨折ではあまり問題になることはありませんが、特に小型犬の橈尺骨骨折では問題となることがあり、プレートの下の部分の骨密度が低下していきます。そのまま放置すると再骨折の原因となることもあります。どんなプレートを使ったとしても発生し得るもので、生物学的要因と生体力学的要因の両方が関係しているとされています。明確な予防法はありませんが、可能な限り骨や周囲の組織にダメージを与えないよう手術を行うことが重要です。

 

レントゲン画像

【術前】

【術後】

【参照文献】

Muroi N, Shimada M, Murakami S, et al. A Retrospective Study of Postoperative Development of Implant-Induced Osteoporosis in Radial–Ulnar Fractures in Toy Breed Dogs Treated with Plate Fixation. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology 2021;34:375-385.