case

診療実績

2022.10.04
整形外科
#48 股関節脱臼【整形外科】
 1歳のトイプードルの女の子が、遊んでいる途中に転倒した後から急に右の後ろ足を上げて痛がっているとのことで来院されました。右の後ろ足は伸ばせないほど痛みが強く、触診にて股関節脱臼が疑われました。レントゲン検査を行うと、右大腿骨(太ももの骨)の骨頭が頭背側方向に脱臼してしまっていました。治療の選択肢として非観血的整復(麻酔下で外れた股関節を下の位置にはめる方法)と観血的整復(手術で外れた股関節を戻し、切れた靭帯や関節包を再建する方法)がありますが、飼い主様と相談の結果まずは非観血的整復を行うこととなりました。全身麻酔下で外れた股関節を戻し、包帯で足を外れにくいポジションに固定しました。

 2週間の包帯固定の間、幸いにも再脱臼することなく過ごしてくれ、解除した後も再脱臼なく元通り歩けるようになってくれました。治療終了して現在数ヶ月経過しますが、問題なく運動できているようです。

 

 犬の股関節脱臼は外傷や事故に伴ってしばしば発生しますが、中には特にきっかけがわからない中で起こることもあります。頭背側脱臼であれば、今回のように非観血的に整復し包帯固定する方法はうまくいけば侵襲少なく回復してくれますが、残念ながら40~50%の患者さんで再脱臼すると報告されています。また包帯での固定は筋肉や皮膚にトラブルを起こすことが多いため、頻繁に交換のために通院して頂く必要があります。手術で股関節を固定する方法は、再脱臼率は低い(11%)ことが報告されていますが、手術に伴う合併症のリスクはあります。どちらが絶対的に良いということは現時点では言えず、飼主様に両方のメリット、デメリットをお伝えし、その子や状況に合った選択ができるよう努力しています。

 

【脱臼時レントゲン】

【整復後レントゲン】

【参照文献】

Demko JL, Sidaway BK, Thieman KM, et al. Toggle rod stabilization for treatment of hip joint luxation in dogs: 62 cases (2000–2005). Journal of the American Veterinary Medical Association 2006;229:984-989.

Schlag AN, Hayes GM, Taylor A, et al. Analysis of outcomes following treatment of craniodorsal hip luxation with closed reduction and Ehmer sling application in dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association 2019;254:1436-1440.