case

診療実績

2021.11.12
整形外科
#31 前十字靭帯断裂【整形外科】
今回は8歳のチワワのわんちゃんで、1年前から続く右後肢の跛行を主訴に来院されました。右後肢は下腿部が内旋し、跛行及び間欠的な挙上を認めていました。検査の結果、膝蓋骨内方脱臼を伴う前十字靭帯疾患と診断しました。特に膝蓋骨内方脱臼はSingletonの分類でGrade4と重度でした。経過のかなり長い患者でしたが、まだ若いことから飼主様と相談し外科手術に進むこととなりました。

 手術は膝蓋骨脱臼と前十字靭帯断裂両者に対して術式を組み合わせて実施しました。幸いにも大腿骨や脛骨の角変形はわずかであり、角変形矯正手術は必要ないと判断しました。関節内を探査すると、前十字靭帯の完全断裂及び内側半月板の損傷を認めました。滑車溝の造溝術、TPLOを実施し手術終了としました。

 今回は3.5kgと小型のわんちゃんでした。骨のサイズが小さく当院の器具では対応できないと判断し、当院外科の外部顧問である高瀬獣医師の協力のもと、器具やインプラントを準備し手術を実施しました。

術後の体調も問題なく回復し、2日後には退院が可能でした。経過が長いことから回復にも時間がかかる可能性がありますが、元気に歩けるよう回復してくれると考えています。

 

 前十字靭帯疾患の外科的治療には数多くの術式が考案されています。残念ながら損傷した靭帯を完全に再建したり、靭帯機能を完全に補填する方法は今のところありません。しかしながら現時点ではTPLO(Tibial Plateau Leveling Osteotomy)が最もデータも多く、良好で安定した結果が得られています。骨を矯正し関節の力学動態を変える手術であり、回転中心を理想的な位置で骨切りした場合には伸筋機構や大腿膝蓋アライメントは変化しないものの関節圧縮力は高まる可能性がある、回転中心が遠位尾側にずれた場合には大腿四頭筋群の張力が増加する可能性がある、など多くの基礎研究が解析目的で行われています。当院でも外科的治療を行う場合は状況によりますがTPLOを第一選択としており、可能な限り詳細に状況やリスク、展望などをお伝えできるよう努めています。

 

【術前レントゲン】

【術後レントゲン】

 

【参照文献】

Kanno N, Ochi Y, Ichinohe T, et al. Effect of the centre of rotation in tibial plateau levelling osteotomy on quadriceps tensile force: an ex vivo study in canine cadavers. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology 2019;32:117-125.

Putame G, Terzini M, Bignardi C, et al. Surgical treatments for canine anterior cruciate ligament rupture: assessing functional recovery through multibody comparative analysis. Frontiers in bioengineering and biotechnology 2019;7:180.