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診療実績

2021.08.15
整形外科
#21 橈尺骨骨折【整形外科】
高所から飛び降りた後からの右前肢挙上を主訴に来院されたわんちゃん。3年前に他院で右橈尺骨(前腕の骨)骨折を治療してあり、これまで問題なく運動できていたとのことでした。レントゲンを撮影すると、以前に設置されたと思われる金属プレートとその遠位端での骨折が認められました。プレートの除去と新たに骨折整復を行うべく、手術に進むこととなりました。

手術はまず骨折部位を確認し、設置されていたプレートを除去しました。幸いにも骨萎縮や明らかな感染所見は認められなかったため、整復の後に別のプレートを用いて固定を行いました。2回目の骨折であり、骨の再生力も正常とは限らないことから海面骨移植も実施しました。術後2~4週間は外固定も併用することとし、手術を終了としました。

今回のわんちゃんは体重1.6kgととても小さな子でしたが、米国獣医麻酔疼痛管理専門医である小田先生の指導のもと、全身麻酔、疼痛管理を徹底して行い、術中、術後の痛みも最小限に無事に手術を終えることができました。整復した骨が癒合するには少し時間がかかりますが、その後は元通りに運動できるようになってくれると思います。

 

橈尺骨骨折は一般的に認められる整形外科疾患であり、特に小型犬やトイ犬種で頻繁します。治療としては、プレートとスクリューを用いた内固定が一般的に選択されることが多いです。しかしながら術後の合併症や、少ないですが今回のように癒合後かなり時間が経ってから再骨折する、プレートの端で骨折するなどの問題も起こってしまう場合があります。骨に金属プレートを設置した場合の力学的変化、血流などの生物学的変化は複雑であり、プレートを設置した部分の骨では骨強度の回復が阻害されるとする報告もあります。小型犬、特にトイ犬種では骨サイズが小さいことから物理的な強度にも限界があるため、骨折が治癒した後も生活にはある程度注意が必要と考えられます。

 

レントゲン画像

【術前】

 

【術後】

 

【参照文献】

1. Field J. Bone plate fixation: its relationship with implant induced osteoporosis. Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology1997;10:88-94.

2. Langkamer V, Ackroyd C. Removal of forearm plates. A review of the complications. The Journal of bone and joint surgery British volume1990;72:601-604.

3. Mie K, Ishimoto T, Okamoto M, et al. Impaired bone quality characterized by apatite orientation under stress shielding following fixing of a fracture of the radius with a 3D printed Ti-6Al-4V custom-made bone plate in dogs. PLOS ONE 2020;15:e0237678.